合宿は1週間続いた。今回も上級コースを滑る雪哉を見る事が出来て、俺としては満足だった。そうして最後の夜がやってきた。例によって演芸会である。
今回は、既に会社で仕事まがいの事をさせられている神田さんは欠席で、ギターを弾いてもらう事が出来ない。しかし、予め演芸会がある事が分かっていたので、神田さんにギター演奏を録音してもらっておいた。なんと準備の良い俺。その演奏を流しながら、歌おうという訳だ。
初めてお酒が出される宴席。やっぱり雪哉の周りには女子が群がる。
「センパーイ、どうしてあんなにスキーが上手いんですかぁ」
って、甘えた声を出すやつとか、とにかく油断ならん。雪哉が女を好きにならないと分かっていても、やっぱり面白くない。
「はいはい、雪哉は俺のものだからね、返してね」
俺がそう言って、女子達を手で払いながら雪哉の隣を陣取ると、
「キャー!」
と、何だか黄色い悲鳴があちこちから響いた。今払いのけた子たちからも。
「え、何?」
俺が驚いて尋ねると、
「いえ、何でもないですぅ」
と言う。だが、お互い顔を見合わせてクスクス笑っている。何だかよく分からないが、怒っていられるよりはいいか。
すると、雪哉が隣から俺をじっと睨んできた。
「何だよ?」
こっそり問いかけると、
「相変わらず、涼介はモテるね」
と一言。ああ、今のキャー!が、俺が来た事に対する歓喜の悲鳴だと解釈したわけだね?そうかもしれないが、だとしたら元々俺のところに集まるのではないか?今まで俺の事はほぼ無視だったのに、それはどうも腑に落ちないぞ。
俺の歌が始まると、みんな酒が回ってきているという事もあるが、掛け声や手拍子なんかでけっこう盛り上げてくれた。みんなが楽しそうで、こういうのもやっぱり楽しいと思った。俺、何の為に歌を歌っているのか自分でもよく分かっていないのだが、聞いてくれる人達が楽しんでいるのを見るのは、やっぱりこっちも楽しい。
「涼介、だいぶステージ慣れしたね」
雪哉が言った。
「そうか?ああ、初期の頃から見たらそうかもな」
と言って、俺は笑った。雪哉は俺のどのステージから見ていたのだろうか。もしかして、最初のステージからだったりして。最初は歌詞を忘れちゃって、一部モゴモゴしたりしていたからなぁ。
「涼介は将来どうするの?歌手は目指さないの?」
雪哉が言った。
「え、俺?いやいや、芸能界はいいよ。俺には向いてない」
「そうかなあ」
「そうだよ。俺はさ、ホテルマンになろうかなって思ってる」
あのリゾートホテルのような、地方の観光ホテルで働きたい。
「そうなんだ!うん、そっちも涼介には向いてるよね」
と雪哉が言ってくれた。
「雪哉は?将来の夢とか、あるの?」
俺も聞いてみた。将来の夢を聞くのは初めてだ。
「僕はね、カウンセラーになりたいんだ」
「へえ、そうなのか」
「あ、その事で話があるんだけど……ちょっと外に出ない?」
個人の演目が全て終わり、後は飲んでしゃべっているだけの会場を後にして、俺たちはロビーに行った。合宿所なので、コンシェルジュなどがいるわけもなく、受付には誰もいない。ロビーは薄暗く、誰もいなかった。外は雪が降っている。入り口のドアから外が見えた。
自販機で水を買って、ロビーに置いてあるソファに並んで腰かけた。
「話って?」
水をグビッと飲んで、俺は雪哉に問いかけた。
「あのね、僕……留学する事にしたんだ」
と雪哉が言った。俺は少し酔っていたので、その意味を解釈するのに数秒かかった。
「留学?え、どこに?」
「アメリカ」
「いつ?いつ行くの?」
「4月」
「えっ、もうすぐじゃん!どのくらいの間行ってるの?」
「2年半くらい」
「……!」
言葉にならなかった。あまりに驚いて。雪哉も黙り込んだ。
今回は、既に会社で仕事まがいの事をさせられている神田さんは欠席で、ギターを弾いてもらう事が出来ない。しかし、予め演芸会がある事が分かっていたので、神田さんにギター演奏を録音してもらっておいた。なんと準備の良い俺。その演奏を流しながら、歌おうという訳だ。
初めてお酒が出される宴席。やっぱり雪哉の周りには女子が群がる。
「センパーイ、どうしてあんなにスキーが上手いんですかぁ」
って、甘えた声を出すやつとか、とにかく油断ならん。雪哉が女を好きにならないと分かっていても、やっぱり面白くない。
「はいはい、雪哉は俺のものだからね、返してね」
俺がそう言って、女子達を手で払いながら雪哉の隣を陣取ると、
「キャー!」
と、何だか黄色い悲鳴があちこちから響いた。今払いのけた子たちからも。
「え、何?」
俺が驚いて尋ねると、
「いえ、何でもないですぅ」
と言う。だが、お互い顔を見合わせてクスクス笑っている。何だかよく分からないが、怒っていられるよりはいいか。
すると、雪哉が隣から俺をじっと睨んできた。
「何だよ?」
こっそり問いかけると、
「相変わらず、涼介はモテるね」
と一言。ああ、今のキャー!が、俺が来た事に対する歓喜の悲鳴だと解釈したわけだね?そうかもしれないが、だとしたら元々俺のところに集まるのではないか?今まで俺の事はほぼ無視だったのに、それはどうも腑に落ちないぞ。
俺の歌が始まると、みんな酒が回ってきているという事もあるが、掛け声や手拍子なんかでけっこう盛り上げてくれた。みんなが楽しそうで、こういうのもやっぱり楽しいと思った。俺、何の為に歌を歌っているのか自分でもよく分かっていないのだが、聞いてくれる人達が楽しんでいるのを見るのは、やっぱりこっちも楽しい。
「涼介、だいぶステージ慣れしたね」
雪哉が言った。
「そうか?ああ、初期の頃から見たらそうかもな」
と言って、俺は笑った。雪哉は俺のどのステージから見ていたのだろうか。もしかして、最初のステージからだったりして。最初は歌詞を忘れちゃって、一部モゴモゴしたりしていたからなぁ。
「涼介は将来どうするの?歌手は目指さないの?」
雪哉が言った。
「え、俺?いやいや、芸能界はいいよ。俺には向いてない」
「そうかなあ」
「そうだよ。俺はさ、ホテルマンになろうかなって思ってる」
あのリゾートホテルのような、地方の観光ホテルで働きたい。
「そうなんだ!うん、そっちも涼介には向いてるよね」
と雪哉が言ってくれた。
「雪哉は?将来の夢とか、あるの?」
俺も聞いてみた。将来の夢を聞くのは初めてだ。
「僕はね、カウンセラーになりたいんだ」
「へえ、そうなのか」
「あ、その事で話があるんだけど……ちょっと外に出ない?」
個人の演目が全て終わり、後は飲んでしゃべっているだけの会場を後にして、俺たちはロビーに行った。合宿所なので、コンシェルジュなどがいるわけもなく、受付には誰もいない。ロビーは薄暗く、誰もいなかった。外は雪が降っている。入り口のドアから外が見えた。
自販機で水を買って、ロビーに置いてあるソファに並んで腰かけた。
「話って?」
水をグビッと飲んで、俺は雪哉に問いかけた。
「あのね、僕……留学する事にしたんだ」
と雪哉が言った。俺は少し酔っていたので、その意味を解釈するのに数秒かかった。
「留学?え、どこに?」
「アメリカ」
「いつ?いつ行くの?」
「4月」
「えっ、もうすぐじゃん!どのくらいの間行ってるの?」
「2年半くらい」
「……!」
言葉にならなかった。あまりに驚いて。雪哉も黙り込んだ。



