9月に入り、大学の後期が始まった。もう雪哉と同じ講義はない。バイトもあるし、特に雪哉はたくさんバイトを入れているので、会えるのは週に1度、スキー部のトレーニングの日だけだった。
トレーニングの後一緒に帰りつつ、そのまま雪哉の家に行ってもいいでしょ、と駄々をこねる俺。
「分かったよ。ちょっと待ってて」
雪哉はスマホを操作した。
「あー、美雪のやつ」
「どうしたの?」
「どこかに泊まりに行けって言ったら、嫌だって」
画面を見せてくれた。あっかんべーをしたスタンプがあった。思わずくくっと笑う。
「なんだよぅ」
「いや、可愛いなと思って」
俺がそう言うと、雪哉の表情がさっと曇った。
「あれ?なんで悲しそうなの?」
「だって。可愛いって」
「可愛いって言われるの嫌なの?」
「え?僕?」
「ん?他に誰かいるか?雪哉が可愛いって言ったんだよ」
俺がそう言うと、
「なーんだ」
と言って、雪哉は機嫌を直した。俺が他の人を可愛いと言ったと思ったのか?スタンプとか?よく分からんな。でも、妬いてくれたのだとしたら、ちょっと嬉しい。
雪哉の家に着いた。雪哉が鍵を開けて、一緒に中に入る。
「お邪魔しまーす」
と、一応言ってから入る。すると、ガチャッと勢いよく部屋の扉が開いた。
「いらっしゃーい!涼介さん、こんばんは」
美雪ちゃんが飛び出してきた。小さくてチョコチョコしていて、見上げるおめめがまん丸で、すごく可愛い。まるでチワワかトイプードルのようだ。
この間は腕を掴んできた美雪ちゃんだが、今日は雪哉が完全に俺をガードしていてそれが出来ないようだ。むふふ、雪哉の愛を感じる。こういうの、たまらんな。
「美雪ちゃん、こんばんは。またね」
雪哉に引っ張られて、雪哉の寝室に入った。そんなに引っ張らなくても大丈夫なのに。雪哉が可愛くて仕方がない俺。
「全く、油断も隙もない」
雪哉が鼻息を荒くして言う。そして音楽をかけた。なるほど、そうやって会話を聞かれないようにするというわけだな?ベッドは窓際にあって、美雪ちゃんの部屋側の壁には机がある。その机の上にスピーカーを置いて、あろうことか壁にスピーカーを向けて音を流す。俺たちは並んでベッドに腰かけた。
「涼介、美雪の事なんだけど」
「なに?」
「僕に似てるでしょ。ほとんど同じ顔でしょ。それなら女の子の方がいいよね。美雪の方が可愛いって思うよね」
「なーにを言ってるんだか。俺が雪哉に惚れたきっかけ、言ってなかったっけ?」
俺は軽くデコピンをして、おでこを抑える雪哉を抱きしめた。
「痛ってえ。きっかけ?スキー場のラウンジでぶつかりそうになった、あれでしょ?」
「違うよ。スキーをする雪哉を見て、惚れたんだ」
格好良かったなぁ、スキーをする雪哉。
「言っとくけど、美雪もスキーが上手いよ」
「え?」
そうなのか。名前からして、親御さんもスキーが好きだったりするのだろうなぁ。家族でスキーが上手いというのは、当然ありだな。
「でも、雪哉は雪哉じゃんか。まだ美雪ちゃんの事はよく知らないけど、雰囲気というか、性格が全然違うみたいだし」
それに、俺の大好きな笑顔が違う。雪哉は媚びたような笑顔じゃなくて、心から楽しそうな、いい笑顔をするんだ。
「みんな最初はそう言うんだけどさ、いずれ変わるんだよ」
雪哉がそんな事を言った。表情が曇る。
「過去に何かあった?」
雪哉は過去の事を話してくれた。
小中学生の頃、2つ年下の妹の存在は隠しようがない。雪哉が人を好きになって、何とか頑張ってその気になってもらえたようでも、相手は妹を見ると、同じ顔なら女の子の方が……と、妹の事を好きになってしまったのだそうだ。
高校生の時には、雪哉の事を好きになってくれた男子がいた。雪哉もその男子を好きになって、つき合う事になった。そして、その彼氏が雪哉の家に遊びに来たのだが、美雪ちゃんを見て、すっかりそっちにのぼせ上がってしまったとか。同じ顔をしていながら、より小さくて華奢な美雪ちゃんの存在は、ゲイである雪哉にとって脅威でしかないのだそうだ。だから、大学生になって神田さんとつき合うようになっても、決して美雪ちゃんには会わせようとしなかったというわけだ。
だが、俺とつき合う事になったら、即日俺と美雪ちゃんが出逢ってしまった。しかも、美雪ちゃんが俺を気に入ってしまったらしい。雪哉は、最後には涙を流しながら話していた。俺はそんな雪哉を抱きしめ、背中を優しく撫でた。
それにしても、雪哉の周りにはひどい男しかいないな。顔しか見ていないのかよ。そりゃ、雪哉の顔はとびきり可愛いけれども、それ以外に良いとこがたくさんあるじゃないか。運動神経だっていいし、いつも笑っていて……あ、スキー部のあいつらもそんな事を言っていたよな。そうだ、あいつら、鷲尾と牧谷に美雪ちゃんを見せたらどうなるだろう。実験してみたい、などと思ってしまった。
トレーニングの後一緒に帰りつつ、そのまま雪哉の家に行ってもいいでしょ、と駄々をこねる俺。
「分かったよ。ちょっと待ってて」
雪哉はスマホを操作した。
「あー、美雪のやつ」
「どうしたの?」
「どこかに泊まりに行けって言ったら、嫌だって」
画面を見せてくれた。あっかんべーをしたスタンプがあった。思わずくくっと笑う。
「なんだよぅ」
「いや、可愛いなと思って」
俺がそう言うと、雪哉の表情がさっと曇った。
「あれ?なんで悲しそうなの?」
「だって。可愛いって」
「可愛いって言われるの嫌なの?」
「え?僕?」
「ん?他に誰かいるか?雪哉が可愛いって言ったんだよ」
俺がそう言うと、
「なーんだ」
と言って、雪哉は機嫌を直した。俺が他の人を可愛いと言ったと思ったのか?スタンプとか?よく分からんな。でも、妬いてくれたのだとしたら、ちょっと嬉しい。
雪哉の家に着いた。雪哉が鍵を開けて、一緒に中に入る。
「お邪魔しまーす」
と、一応言ってから入る。すると、ガチャッと勢いよく部屋の扉が開いた。
「いらっしゃーい!涼介さん、こんばんは」
美雪ちゃんが飛び出してきた。小さくてチョコチョコしていて、見上げるおめめがまん丸で、すごく可愛い。まるでチワワかトイプードルのようだ。
この間は腕を掴んできた美雪ちゃんだが、今日は雪哉が完全に俺をガードしていてそれが出来ないようだ。むふふ、雪哉の愛を感じる。こういうの、たまらんな。
「美雪ちゃん、こんばんは。またね」
雪哉に引っ張られて、雪哉の寝室に入った。そんなに引っ張らなくても大丈夫なのに。雪哉が可愛くて仕方がない俺。
「全く、油断も隙もない」
雪哉が鼻息を荒くして言う。そして音楽をかけた。なるほど、そうやって会話を聞かれないようにするというわけだな?ベッドは窓際にあって、美雪ちゃんの部屋側の壁には机がある。その机の上にスピーカーを置いて、あろうことか壁にスピーカーを向けて音を流す。俺たちは並んでベッドに腰かけた。
「涼介、美雪の事なんだけど」
「なに?」
「僕に似てるでしょ。ほとんど同じ顔でしょ。それなら女の子の方がいいよね。美雪の方が可愛いって思うよね」
「なーにを言ってるんだか。俺が雪哉に惚れたきっかけ、言ってなかったっけ?」
俺は軽くデコピンをして、おでこを抑える雪哉を抱きしめた。
「痛ってえ。きっかけ?スキー場のラウンジでぶつかりそうになった、あれでしょ?」
「違うよ。スキーをする雪哉を見て、惚れたんだ」
格好良かったなぁ、スキーをする雪哉。
「言っとくけど、美雪もスキーが上手いよ」
「え?」
そうなのか。名前からして、親御さんもスキーが好きだったりするのだろうなぁ。家族でスキーが上手いというのは、当然ありだな。
「でも、雪哉は雪哉じゃんか。まだ美雪ちゃんの事はよく知らないけど、雰囲気というか、性格が全然違うみたいだし」
それに、俺の大好きな笑顔が違う。雪哉は媚びたような笑顔じゃなくて、心から楽しそうな、いい笑顔をするんだ。
「みんな最初はそう言うんだけどさ、いずれ変わるんだよ」
雪哉がそんな事を言った。表情が曇る。
「過去に何かあった?」
雪哉は過去の事を話してくれた。
小中学生の頃、2つ年下の妹の存在は隠しようがない。雪哉が人を好きになって、何とか頑張ってその気になってもらえたようでも、相手は妹を見ると、同じ顔なら女の子の方が……と、妹の事を好きになってしまったのだそうだ。
高校生の時には、雪哉の事を好きになってくれた男子がいた。雪哉もその男子を好きになって、つき合う事になった。そして、その彼氏が雪哉の家に遊びに来たのだが、美雪ちゃんを見て、すっかりそっちにのぼせ上がってしまったとか。同じ顔をしていながら、より小さくて華奢な美雪ちゃんの存在は、ゲイである雪哉にとって脅威でしかないのだそうだ。だから、大学生になって神田さんとつき合うようになっても、決して美雪ちゃんには会わせようとしなかったというわけだ。
だが、俺とつき合う事になったら、即日俺と美雪ちゃんが出逢ってしまった。しかも、美雪ちゃんが俺を気に入ってしまったらしい。雪哉は、最後には涙を流しながら話していた。俺はそんな雪哉を抱きしめ、背中を優しく撫でた。
それにしても、雪哉の周りにはひどい男しかいないな。顔しか見ていないのかよ。そりゃ、雪哉の顔はとびきり可愛いけれども、それ以外に良いとこがたくさんあるじゃないか。運動神経だっていいし、いつも笑っていて……あ、スキー部のあいつらもそんな事を言っていたよな。そうだ、あいつら、鷲尾と牧谷に美雪ちゃんを見せたらどうなるだろう。実験してみたい、などと思ってしまった。



