翌朝、目覚ましが鳴るより前に目が覚めた。見慣れない天井に一瞬思考が停止する。ああ、そうだ。リゾートホテルの寮だった。そして、ふと隣のベッドへ視線を向ける。そこには愛しい雪哉が眠っていた。
 そっと起き上がり、足下の井村を確認する。井村は向こうを向いて眠っている。よし、これはチャンス。雪哉がこちらを向いて眠っているので、俺は静かに顔を近づけ、そうっと口づけをした。すると雪哉がパチッと目を開けた。口を開きかけた雪哉に、俺は指をしっと立てて制する。そして、井村の方を確認しようとしたら、
「あーあ、もう朝?」
井村が伸びをしながら起き上がった。危なかったー。
 1日の仕事が終わり、部屋に戻った。雪哉がシャワーを浴びている時の事。
「あのさあ、ミッキーとユッキーってつき合ってるの?」
井村が突然そう聞いてきた。
「え!?いや、違うけど」
何だか慌ててそう返す。
「でもほら、今朝の……」
井村はそう言って、俺たちのベッドを指さした。ああ、今朝のあれを見ていたのか。やっぱり。
「それは……参ったな」
俺は頭をかく。
「正直に言えよ。他のやつには黙ってるからさ」
「うん。いや、でもつき合ってはいないんだ。雪哉には恋人がいて、俺とはつき合えないって。でも、俺は諦めてないっつうか」
「へえ、そうなのか。ハハハ、ワッシーとマッキーが知ったら泣くな」
笑い事でもないけどな。
「でも、あの感じだと、ユッキーもまんざらじゃ無さそうだよね、ミッキーの事」
井村が言う。
「え、そう思う?やっぱり?」
つい嬉しくなる。
「まあ、ミッキーはイケメンだからなぁ。好かれて悪い気はしないんじゃないの?ユッキーがそういうキャラかどうかは知らんけど」
「そういうキャラって?」
「つまり、軽いキャラなのかどうか」
軽いキャラなら、ちょっと見てくれの良いやつに言い寄られたらフラフラっと行くけれど、雪哉がそうでないなら、そう簡単じゃないぞという訳か。雪哉は、軽いキャラ……ではないだろうな。そこが良い所なわけだし。あの可愛い顔とのギャップというか。
 そこで、俺の電話が着信した。画面を確認すると、友加里からだった。
「あ、電話だ。ちょっと話してくる」
俺はそう言って部屋を出た。ちょうど雪哉がシャワールームから出てきたところだった。
 廊下に出て、電話に出る。
「どう?雪哉くんとは上手くやってる?」
友加里が言う。
「まあ……そこそこ」
歯切れの悪い返事しかできん。
「私の方はね……」
なんと、友加里はまだ神田さんの事を諦めてはいなかった。作戦を続けていたのだ。作戦と言っても、もう俺の為の作戦ではない。自分が神田さんをモノにしようという大作戦に移行されていた。
「慎重に行く事にしたのよ。そんでね、今日2人で飲みに行く事になったの!前みたいに色仕掛けとかはナシで……」
色々と作戦を話してくれた。そうか、地道に頑張ってるんだな。派手な見た目な友加里が意外なところを見せたら、そのギャップで男はイチコロなのかも?俺にはよく分からんが。頑張れ、友加里。その間に俺もこっちで頑張るぞ。
 待てよ。そうか……ギャップねえ。俺の見た目って、きっと軽いやつなんだろうな。俺も、いつも攻めてばっかりじゃなくて、もうちょっと地道に好かれる努力をしてみるか……。よし、決めた。しばらく雪哉に手を出さないぞ。
 部屋に戻ると、雪哉がチラッとこちらを見た。何か言いたげな様子。だが言わない。
「ん?どうした?」
俺が声を掛けると、ちょっと迷った後、
「電話、してたの?」
と聞いてきた。何々?俺に興味があるのかい?
「あ、うん。友達から掛かってきて」
だが、さりげない様子で返す。今、井村がシャワールームにいるようで、シャワーの音が聞こえていた。もうすぐ出てくるだろう。
「あ、そう」
目を泳がせた雪哉。誰からか聞きたいのだろうか。でも、何を気にしているのだろう。俺が雪哉にぞっこんなのは既知の事実なのだし、俺が誰かと話していたからって、何も気にする要素はない気がするけどな。