それから俺と雪哉はけっこう仲良くなった。告白して、ふられてから仲良くなるなんて、世の中へんてこな事もあるもんだ。
スキー部のトレーニングの時も、雪哉と笑い合いながら。ああ、たとえ階段の上り下りだとしても、雪哉を見ながら走るのは、なんて楽しい行為なんだ。
「夏休みには合宿があるんだよ」
トレーニングが終わって着替えている時に、3年生のメンバーに教えてもらった。
「マジ?オーストラリアにでも行くのか?」
俺がそう返すと、
「なーに言ってんだよ、この金持ちが!」
「バカも休み休み言え!」
なぜか、とても怒られた。
「そうじゃなくって、日本の、しかも関東近郊の山でグラススキーをするんだよ。そんで、リゾートホテルでバイトもするんだ」
雪哉が優しく教えてくれた。
「ああグラススキーか。なーるほど」
ワイングラス、とかじゃないんだよな。俺だって知っているさ。草だろ、草。
「今は人工芝とか、もっといい物を使っているところもあって、けっこう良い感じに滑れるんだぜ」
と井村が教えてくれた。へえ。
3年生同士仲良くなったので、俺は思い切ってみんなで飲みに行こうと誘った。いつもなら自分から誘ったりしないのだが、何せ俺は今、雪哉と一緒に飲みに行きたい。けれども2人で行こうとすると断られる。だから5人でならいいだろう、という訳なのだ。
せっかくなら遊ぼうという事になった。みんなはあまり行った事がないと言うお台場へ。俺は子供の頃にも行ったし、高校生の時にも集団デートで行ったりした東京ジョイポリスへ。男ばっかりで行くなんて、子供の頃でさえなかった事だが。
「海だー!」
「海だー!」
って、みんな東京湾を見て感激している。ゆりかもめに乗りたいと言うので、新橋で集合して乗ってみた。子供に交じって一番前に陣取る俺たち。
「この2年、東京に住んでたんだろ、みんな」
俺が言うと、
「こういう所に遊びに来る事はなかったんだよ。渋谷とか、新宿には行ったけど」
「俺は秋葉原には行くけど、おしゃれな所にはさっぱり」
牧谷と鷲尾が言った。まあ、喜んでくれたなら良かった。
ジョイポリスでは、雪哉の笑顔がたくさん見られた。他のやつらもきっと笑顔だったのだろう。気分悪くなったやつもいたけど、そんな事は記憶にも残らん。
居酒屋に行く為に場所を移動した。観光地のおしゃれなレストランは、俺ら5人には似合わないので。新橋の居酒屋に入った。
「今日は楽しかったね」
雪哉が俺にそう言った。
「そうだな」
俺は、酔ったふりをして(お決まりの!)雪哉の肩に腕を回した。どうするかな、と思ったが、雪哉は特に嫌がりもせず、そのまま飲んでいた。
「あ、ちょっとミッキー、それはダメだよ!」
「ああ!抜け駆けはダメだぞー!」
本当に酔っているらしい鷲尾と牧谷にダメ出しをされてしまった。
「何の事かな~」
酔ったふり、酔ったふり。更に顔を雪哉の頭にギューッとくっつける。
「こら、調子に乗るな」
雪哉にペンッと頭を叩かれてしまった。無念。
新橋駅で解散した。鷲尾と牧谷は肩を組んでフラフラしながら帰った。2人の家は近いらしい。井村は別の電車に乗り、俺と雪哉は同じ電車に乗った。俺と雪哉の家が意外に近い事が判明。俺は頭の中で地図をパパッと検索し、ある駅で降りて途中まで一緒に歩いて帰れる事を発見した。
「涼介、流石にこの辺に詳しいね。地元民だもんね」
雪哉のやつ、酔っていて思考力が鈍っているな。よしよし。
電車を降りて夜道をゆっくりと歩く。夜風が火照った顔を心地よく冷やす。だいぶ酔いも覚めてきた。そして、雪哉と2人で歩いているという事実にときめきを覚える。グラススキーがどんなものか、リゾートホテルのバイトがどんな感じなのか、そんな話を聞きながら歩いた。時々手がぶつかる。気にしないふりをする。手を握りたい衝動に駆られる。小指をほんの少しだけ動かして探りを入れる。だが、そうこうしているうちに分かれ道に着いてしまった。
「ここから俺はこっち。雪哉の家はあっちね。大丈夫か?家まで送って行こうか?」
「大丈夫だよ。GPSあるし。スマホ見ながら帰るから」
まあ、そうだろうな。
「そっか」
「うん」
人気の無い住宅街。立ち止まったまま、俺たちは一瞬黙る。
「じゃあ、またね」
雪哉がそう言った。俺はつい、雪哉の腕を掴む。そしてもう片方の手を雪哉の肩に置く。顔を近づける。どうか逃げないでくれ。
雪哉が目を閉じた。俺は、そっとキスをした。
スキー部のトレーニングの時も、雪哉と笑い合いながら。ああ、たとえ階段の上り下りだとしても、雪哉を見ながら走るのは、なんて楽しい行為なんだ。
「夏休みには合宿があるんだよ」
トレーニングが終わって着替えている時に、3年生のメンバーに教えてもらった。
「マジ?オーストラリアにでも行くのか?」
俺がそう返すと、
「なーに言ってんだよ、この金持ちが!」
「バカも休み休み言え!」
なぜか、とても怒られた。
「そうじゃなくって、日本の、しかも関東近郊の山でグラススキーをするんだよ。そんで、リゾートホテルでバイトもするんだ」
雪哉が優しく教えてくれた。
「ああグラススキーか。なーるほど」
ワイングラス、とかじゃないんだよな。俺だって知っているさ。草だろ、草。
「今は人工芝とか、もっといい物を使っているところもあって、けっこう良い感じに滑れるんだぜ」
と井村が教えてくれた。へえ。
3年生同士仲良くなったので、俺は思い切ってみんなで飲みに行こうと誘った。いつもなら自分から誘ったりしないのだが、何せ俺は今、雪哉と一緒に飲みに行きたい。けれども2人で行こうとすると断られる。だから5人でならいいだろう、という訳なのだ。
せっかくなら遊ぼうという事になった。みんなはあまり行った事がないと言うお台場へ。俺は子供の頃にも行ったし、高校生の時にも集団デートで行ったりした東京ジョイポリスへ。男ばっかりで行くなんて、子供の頃でさえなかった事だが。
「海だー!」
「海だー!」
って、みんな東京湾を見て感激している。ゆりかもめに乗りたいと言うので、新橋で集合して乗ってみた。子供に交じって一番前に陣取る俺たち。
「この2年、東京に住んでたんだろ、みんな」
俺が言うと、
「こういう所に遊びに来る事はなかったんだよ。渋谷とか、新宿には行ったけど」
「俺は秋葉原には行くけど、おしゃれな所にはさっぱり」
牧谷と鷲尾が言った。まあ、喜んでくれたなら良かった。
ジョイポリスでは、雪哉の笑顔がたくさん見られた。他のやつらもきっと笑顔だったのだろう。気分悪くなったやつもいたけど、そんな事は記憶にも残らん。
居酒屋に行く為に場所を移動した。観光地のおしゃれなレストランは、俺ら5人には似合わないので。新橋の居酒屋に入った。
「今日は楽しかったね」
雪哉が俺にそう言った。
「そうだな」
俺は、酔ったふりをして(お決まりの!)雪哉の肩に腕を回した。どうするかな、と思ったが、雪哉は特に嫌がりもせず、そのまま飲んでいた。
「あ、ちょっとミッキー、それはダメだよ!」
「ああ!抜け駆けはダメだぞー!」
本当に酔っているらしい鷲尾と牧谷にダメ出しをされてしまった。
「何の事かな~」
酔ったふり、酔ったふり。更に顔を雪哉の頭にギューッとくっつける。
「こら、調子に乗るな」
雪哉にペンッと頭を叩かれてしまった。無念。
新橋駅で解散した。鷲尾と牧谷は肩を組んでフラフラしながら帰った。2人の家は近いらしい。井村は別の電車に乗り、俺と雪哉は同じ電車に乗った。俺と雪哉の家が意外に近い事が判明。俺は頭の中で地図をパパッと検索し、ある駅で降りて途中まで一緒に歩いて帰れる事を発見した。
「涼介、流石にこの辺に詳しいね。地元民だもんね」
雪哉のやつ、酔っていて思考力が鈍っているな。よしよし。
電車を降りて夜道をゆっくりと歩く。夜風が火照った顔を心地よく冷やす。だいぶ酔いも覚めてきた。そして、雪哉と2人で歩いているという事実にときめきを覚える。グラススキーがどんなものか、リゾートホテルのバイトがどんな感じなのか、そんな話を聞きながら歩いた。時々手がぶつかる。気にしないふりをする。手を握りたい衝動に駆られる。小指をほんの少しだけ動かして探りを入れる。だが、そうこうしているうちに分かれ道に着いてしまった。
「ここから俺はこっち。雪哉の家はあっちね。大丈夫か?家まで送って行こうか?」
「大丈夫だよ。GPSあるし。スマホ見ながら帰るから」
まあ、そうだろうな。
「そっか」
「うん」
人気の無い住宅街。立ち止まったまま、俺たちは一瞬黙る。
「じゃあ、またね」
雪哉がそう言った。俺はつい、雪哉の腕を掴む。そしてもう片方の手を雪哉の肩に置く。顔を近づける。どうか逃げないでくれ。
雪哉が目を閉じた。俺は、そっとキスをした。



