君に捧ぐ歌


「あの、曲ってどうやって作るんですか‥‥」
「え? 今なんて?」

 期末テスト後の放課後、無礼を承知で右京先輩に質問する。
 誰にも相談せず作詞作曲しようとしたけれど、心が折れたので先輩に相談することにした。

 普段テンションが高いのに、なぜかポカーンとしている先輩。あまりにも間抜けな質問だっただろうか。

「あ、やっぱり大丈夫です」
「待て待て待てーい! なに、山ちゃん曲作りたいの? なんで? なんかあったの??」

 がしっと肩を掴まれて逃げられない。
 強制的に隣に座らされ、質問攻めに合う。

「いや、まあなんかはあったんですけど、一応前から作ってみたいとは思ってまして‥‥」
「へー! 誰のため? 自分のため? ってかどんな曲がいいの? てかてか山ちゃんって歌うの? それとも弾くの?」
「えと、あの‥‥」

 質問に質問を重ねられて、どこから答えればいいのか迷ってしまう。
 俺が顔を青くしていると松下くんが助け舟を出してくれる。

「右京先輩、攻め立てすぎですよ。いつもより、見てて山瀬が可哀想です」

 あっ、俺っていつも可哀想って思われてるんだあ、ということはさておき。
 松下くんがびりっと俺と右京先輩の距離を引き剥がしてくれる。そしてなぜか彼が真ん中に座った。

「えーっと、なんで松下が真ん中に座んの?」

 珍しく俺も先輩と同意見だが、空気を読んで黙っておく。

「なんか、そのほうがいいかなって」
「難し! 松下の思考むず! 動物的直感やめて!」
「なんすか、その遠回りにアホって言われてる気がする例え方!」
「あっそういうのは分かるんだ〜」
「右京先輩性格悪いっすよ!」

 わちゃわちゃしている二人を横目に、すーっと気配を消して消えようとする。
 すると今度は松下くんが俺の腕を掴んだ。

「おいおい、山瀬。俺はお前に聞きたいことがあんだよ。だからさっき助けてやったの。恩を仇で返すな」
「待って、俺一応先輩なんだけど今仇って言った??」

 松下くんは右京先輩を無視して俺の横に鬼の形相で座る。

「な、なんでしょうか‥‥?」
「お前さあ、宮脇さんには彼氏いないって言ったよな?」
「ひゃ、ひゃい! いないです」

 ぎろりと睨まれて、背筋に嫌な電流が流れた。
 嘘はついてない。朱莉には彼氏はいないはずだ。
 松下くんは深くため息をついてから、再度口を開いた。

「じゃあなんで、サッカー部の春田(はるた)ってやつと付き合ってるなんて噂が流れてんだよ」
「へ‥‥‥?」

 刹那、頭が真っ白になった。
 彼の言葉を上手く飲み込めない。
 誰が誰と付き合ってるなんて、噂が流れてるって?

「うわ〜春田かあ。あいつ死ぬほど爽やかで、めちゃくちゃ性格良いから俺らの学年でもすげえ人気なんだよな。しかも甘い顔したイケメンなの。でも山ちゃんの幼馴染の子もアイドル級に可愛いんだっけ? たまに二年でも話題にあがるわ」
「宮脇さんはアイドル級というか、もうアイドルです。高嶺の花ですね」

 決して他人に優しくない右京先輩がベタ褒めするくらい、春田先輩という人はいい男なのだろう。
 そんな人に好意を寄せられてたなんて、一言も聞いたことがなかった。
 どうして相談してくれなかったのだろうと、仄暗い気持ちが体の中をぐるぐるとまわる。

「で、実際どうなんだよ。噂は真実なのか?」

 疑いの目で松下くんは俺を見る。

「分からない。朱莉はなにも言ってくれないから」

 語尾に向かってどんどん声が小さくなる。
 情けなくて、今すぐ逃げ出したい。

 松下くんは頭を掻いて「そっか」とだけ答えた。

「まだ噂だし、山瀬にちゃんと話してないってことはワンチャン付き合ってない可能性あるよな」 

 この話を噂を聞いて、前向きになれるメンタルの強さが羨ましい。
 松下くんは立ち上がると、俺の真正面に立った。

「俺さ、文化祭の後夜祭で宮脇さんに告白しようと思ってんだ」
「お、お前まじか!」

 部室がざわつく。
 いや、松下くん本気でメンタル強すぎない?
 なんで普通の声量で、そんなこと堂々と言えるんだよ。

 右京先輩は興奮気味に「頑張れ!」と強く松下くんの肩を叩く。
 痛がりながらも、少し喜んでいる松下くん。
 そこらかしこにライバルが溢れていて、本当に嫌気が差す。

「一応、お前は宮脇さんの幼馴染だから伝えといた」

 まだ夏休みも迎えていないのに気が早いね、なんて流せるほど俺は淡い恋心を持ち合わせていない。

「‥‥うん、分かった」

 ただ、返事をするので精一杯だ。
 つんと鼻先が痛んでいることを、どうか誰にも知られませんように。
 ついでに、迫り上がってくるなにかのせいで目頭が熱いことも隠し通したい。

 松下くんは宣言して、スッキリしたのか練習に戻った。
 俺は放心状態のまま、今日も右京先輩にしごかれる。
 どうしてか、いつもよりちょっとだけ優しい気がした。

 普段通り一人で家に帰る。
 母さんの作った夕飯を食べて、風呂と歯磨きを済ませたら早めにベッドに潜った。

 でも、寝れない。
 体は疲れているのに、神経が昂っている。

 春田先輩ってどんな人だろう。
 朱莉と並んだとき、俺よりお似合いなんだろうな。
 でも、だからって、諦められない。
 諦められるならもうとっくに諦めてる。
 そのくらい、俺は朱莉のことが好きだ。

 今度、朱莉に聞いてみよう。

 本音を言えば噂のことなんて気がなったことにしたい。
 だけど、朱莉の口から聞いたことしか信じたくないから確認するんだ。

 少しずつでも、弱虫を卒業したい。