日記を読み終えた頃には、涙で視界が滲んでいた。
 ぼたぼたとこぼれた涙が、日記の表紙に染みをを作ってゆく。

 朱莉が亡くなった日も、葬式の時も泣けなかったのに今更になってどんどん粒が大きくなってゆく。
 喉が焼けるように痛くて、嗚咽が漏れた。
 次第に声が漏れて、叫ぶみたいに泣いた。

 心配して、紗栄子さんと母さんが下から上がってきても俺は構わず泣き続けた。
 感情のダムが壊れて、一気に寂しさと悲しさが襲ってきた。



 彼女の日記には俺の知らない朱莉が詰まっていた。
 知らない面が多かったけれど、見慣れた文字だ。
 少し丸くて、でも留め跳ねがしっかりしてて。
 意志の強い彼女の文字。

 俺は、朱莉の文字を書く姿を見るのが好きだった。
 放課後、一緒に日誌を書いた時。
 朱莉が俯いて、さらさらと流れるように文字を書く。俺はそれを前に座って静かに眺める。
 長いまつ毛が影を落としていた。
 俺がじっと見つめているのに気がついて「見ないで」って朱莉が恥ずかしそうにはにかむ。

 もう二度と訪れない、好きだった時間。
 彼女と過ごした日常の全てが、宝物だった。

 朱莉、俺はまだ君のところへはいけないけれど。
 いつか同じ場所に行った時、君に怒られないよう必死に生きるから。




 だから、どうか見守っていて欲しい。




 願うならば、君を脅かすものがなにもない、あたたかな幸せが溢れた場所で。







 俺が君のところに行くまで、少しだけさよならしよう。