中庭のベンチに座り、スマホで時刻を確認する。待ち合わせ相手はまだ来ておらず、俺は旅行サイトを開いた。ゴールデンウィークを目前に、いろんなキャンペーンが画面に表示されている。学生割引きという項目をタップし、近場の温泉宿を調べてみると、割引きと謳いながらもなかなかの値段に目を細めた。
「雪弥さんっ」
少し離れたところから、俺を呼ぶ声がして顔を上げると、太陽が講義資料を手に持ったまま走ってくるのが見えた。
「すみません、ちょっとさっきの講義が長引いて」
「別に。大して待ってないよ」
スマホの画面を閉じ、ベンチから立ち上がると、太陽と並んで歩き始めた。
「何見てたんですか?」
「旅行サイト」
「え、どっか行くんですか?」
「いや。行きたいなって思ったけど、バイト代足りなさそうだった」
「そっかぁ……。で、今日はどうしたんですか?もしかして、これからどっか連れてってくれるとか?」
太陽が目を輝かせる。が、俺は首を即座に横に振った。
「黒崎さんが、俺達に詫びたいんだってさ」
すると太陽は足を止めて「えー」と露骨に嫌な顔をした。
「えぇー、良いですよもう……。俺がましろちゃんと長時間デートした男の顔見たいと思います?」
「……まだ言ってんのかよそれ」
「言いますよ。俺のましろちゃんですから」
むすっと、不貞腐顔で太陽は答えた。だが、黒崎さんからは焼肉を奢ると聞かされている。何としてでも俺は詫びを入れてもらおうと思っていた。
「あ、雪弥さんがまたましろちゃんの格好してくれるなら、会っても良いかな」
「……誰がするかよ。お前さ、なんでそんなにましろちゃんにこだわるんだよ。女装男子って抵抗ないわけ?」
太陽は首を縦に振った。
「抵抗なんて……俺、まんまと雪弥さんに騙されて一目惚れですよ?」
「あー……まぁ、確かに」
俺は中庭で付き合ってくださいと大きな声で言われたあの日のことを思い出し、苦笑いを浮かべた。
「それに、そうでもしないと雪弥さん、俺と手繋いで外歩いてくれそうにないし」
「……は?」
「だってそうでしょ?なら、今繋いで歩けます?」
太陽が俺に手を差し出しながら言った。細い手首に広い大きな手。なよなよしいやつだとは思っていたが、意外としっかりした男の手のひらだ。
一瞬、重ねかけて手を引っ込めた。昼時の中庭は学生の往来が多く、誰かに見られてしまうかもという気持ちが先行する。
「無理しないでください。さっきのはただの八つ当たりですから」
そう言って太陽は手を引っ込めようとしたが、俺はその手を掴んだ。
「……ゆ、雪弥さん?」
「前に言ったろ。したいこと、叶えてやっても良いって」
そう言う自分の手には汗がじんわりと滲んでいて、周りに見られてしまっているのではと、変に意識して目まで泳いだ。すると、太陽が俺の手を握り返し、嬉しそうににこりと笑った。
「……嬉しいです。でも、やっぱ可愛い雪弥さんは独り占めしたいので、ここでは勘弁してあげます」
太陽はそう言うと、ゆっくりと手を離した。手汗に濡れた手のひらに風が当たる。ひんやりと冷たくなっていく手のひらから、太陽と繋がっていた温もりが消えるような気がして、俺は咄嗟に太陽の手をもう一度掴んだ。
「……別に、俺今可愛いくないし。少しぐらいまだ繋いでても良いと思うんだけど……?」
恥ずかしさと緊張で、声が上擦った。勢いに任せて動いたせいで、心臓もびっくりしている。太陽の方は勿論見れなくて、俺は下を向いたままだった。
「あの……雪弥さん」
「……なんだよ」
「そういうの反則です……っ」
そう言って太陽は俺の手を握ったまま、その場に蹲み込むと、額に手を当てて大きな溜息を吐いたのだった。
「雪弥さんっ」
少し離れたところから、俺を呼ぶ声がして顔を上げると、太陽が講義資料を手に持ったまま走ってくるのが見えた。
「すみません、ちょっとさっきの講義が長引いて」
「別に。大して待ってないよ」
スマホの画面を閉じ、ベンチから立ち上がると、太陽と並んで歩き始めた。
「何見てたんですか?」
「旅行サイト」
「え、どっか行くんですか?」
「いや。行きたいなって思ったけど、バイト代足りなさそうだった」
「そっかぁ……。で、今日はどうしたんですか?もしかして、これからどっか連れてってくれるとか?」
太陽が目を輝かせる。が、俺は首を即座に横に振った。
「黒崎さんが、俺達に詫びたいんだってさ」
すると太陽は足を止めて「えー」と露骨に嫌な顔をした。
「えぇー、良いですよもう……。俺がましろちゃんと長時間デートした男の顔見たいと思います?」
「……まだ言ってんのかよそれ」
「言いますよ。俺のましろちゃんですから」
むすっと、不貞腐顔で太陽は答えた。だが、黒崎さんからは焼肉を奢ると聞かされている。何としてでも俺は詫びを入れてもらおうと思っていた。
「あ、雪弥さんがまたましろちゃんの格好してくれるなら、会っても良いかな」
「……誰がするかよ。お前さ、なんでそんなにましろちゃんにこだわるんだよ。女装男子って抵抗ないわけ?」
太陽は首を縦に振った。
「抵抗なんて……俺、まんまと雪弥さんに騙されて一目惚れですよ?」
「あー……まぁ、確かに」
俺は中庭で付き合ってくださいと大きな声で言われたあの日のことを思い出し、苦笑いを浮かべた。
「それに、そうでもしないと雪弥さん、俺と手繋いで外歩いてくれそうにないし」
「……は?」
「だってそうでしょ?なら、今繋いで歩けます?」
太陽が俺に手を差し出しながら言った。細い手首に広い大きな手。なよなよしいやつだとは思っていたが、意外としっかりした男の手のひらだ。
一瞬、重ねかけて手を引っ込めた。昼時の中庭は学生の往来が多く、誰かに見られてしまうかもという気持ちが先行する。
「無理しないでください。さっきのはただの八つ当たりですから」
そう言って太陽は手を引っ込めようとしたが、俺はその手を掴んだ。
「……ゆ、雪弥さん?」
「前に言ったろ。したいこと、叶えてやっても良いって」
そう言う自分の手には汗がじんわりと滲んでいて、周りに見られてしまっているのではと、変に意識して目まで泳いだ。すると、太陽が俺の手を握り返し、嬉しそうににこりと笑った。
「……嬉しいです。でも、やっぱ可愛い雪弥さんは独り占めしたいので、ここでは勘弁してあげます」
太陽はそう言うと、ゆっくりと手を離した。手汗に濡れた手のひらに風が当たる。ひんやりと冷たくなっていく手のひらから、太陽と繋がっていた温もりが消えるような気がして、俺は咄嗟に太陽の手をもう一度掴んだ。
「……別に、俺今可愛いくないし。少しぐらいまだ繋いでても良いと思うんだけど……?」
恥ずかしさと緊張で、声が上擦った。勢いに任せて動いたせいで、心臓もびっくりしている。太陽の方は勿論見れなくて、俺は下を向いたままだった。
「あの……雪弥さん」
「……なんだよ」
「そういうの反則です……っ」
そう言って太陽は俺の手を握ったまま、その場に蹲み込むと、額に手を当てて大きな溜息を吐いたのだった。



