カフェを出ると黒崎さんは道路側に立ち、俺の手を引いて歩き出した。今日はスニーカーを履いてきているのに、歩くペースも俺に合わせている。身長ですら勝てないのに、男としてのレベルの差を叩きつけられている感じがして悔しくなった。
通りすがりの人から騒がれようが、涼しい顔をしている黒崎さんは俺を連れ出してどこへ行くのだろうか。
「あの、手……。そろそろ話して欲しいんですけど……」
「だって真城、逃げそうだし」
「……逃げませんてば」
そう言っても黒崎さんは、横断歩道の信号で立ち止まるまでそのまま歩き続けた。
「一度さ、真城とデートしてみたかったんだよね」
車が行き交う音の中、耳元でそう囁かれる。ぞわりとして、肩がびくんと揺れると、隣でクスクスと笑い始めた。
「ごめんごめん、なんか本当に可愛くて」
「なんなんですか……」
「そう怒らない。可愛いのが台無しだよ」
「可愛いって言えば済むと思ってるんですね。俺、そんな言葉が欲しい女の子じゃないんですけど」
「あ、青だ」
黒崎さんは俺の手をしっかりと繋いだまま歩き出した。
「どこ行くんですかっ」
「デートだってば」
「答えになってないです」
「じゃあ、デートの予行練習」
「黒崎さん」
何を言っても適当に誤魔化す。初対面の時から距離が近くて苦手なのに、こうも読めないとなると調子が狂う。しかし、スカートで歩く俺を気遣っているのか、ずっと歩幅を合わせてくれたのはとても助かった。
しばらく黒崎さんと俺はその辺をぶらぶらと散歩するぐらいで、特にどこへ向かうこともなかった。ずっと楽しそうだったし、とりあえず何も言わずに手を引かれるまま付いて行った。服屋に入ればメンズ、レディース問わず俺にあてては似合うと言って褒めてくれていた。
側から見れば、彼女にべた惚れの彼氏にしか見えないだろう。店員さんには「ステキな彼氏さんですねぇ」と羨ましがられ、なんと答えれば良いのか返答に困った。
数ヶ月前までは全部俺が女の子にやってあげたいことだった。それがこんな格好をして、される側になるなんて。ショーウィンドーに映る自分は、どこから見ても身長の高い女の子にしか見えない。それにさっきから褒めてくれるのは、何を考えているのか全く分からない先輩で、なんだか複雑だった。
「振り回しちゃったね、ごめん。少し休憩しようか」
ショーウィンドーの前で溜息を吐いたのを見られ、黒崎さんは俺を覗き込むようにして申し訳なさそうに言った。
「いや、あの」
「ちょっとさ、言いたいことあって」
「……え、俺に?」
黒崎さんは眉をハの字に寄せて困った表情を浮かべながら頷いた。
通りすがりの人から騒がれようが、涼しい顔をしている黒崎さんは俺を連れ出してどこへ行くのだろうか。
「あの、手……。そろそろ話して欲しいんですけど……」
「だって真城、逃げそうだし」
「……逃げませんてば」
そう言っても黒崎さんは、横断歩道の信号で立ち止まるまでそのまま歩き続けた。
「一度さ、真城とデートしてみたかったんだよね」
車が行き交う音の中、耳元でそう囁かれる。ぞわりとして、肩がびくんと揺れると、隣でクスクスと笑い始めた。
「ごめんごめん、なんか本当に可愛くて」
「なんなんですか……」
「そう怒らない。可愛いのが台無しだよ」
「可愛いって言えば済むと思ってるんですね。俺、そんな言葉が欲しい女の子じゃないんですけど」
「あ、青だ」
黒崎さんは俺の手をしっかりと繋いだまま歩き出した。
「どこ行くんですかっ」
「デートだってば」
「答えになってないです」
「じゃあ、デートの予行練習」
「黒崎さん」
何を言っても適当に誤魔化す。初対面の時から距離が近くて苦手なのに、こうも読めないとなると調子が狂う。しかし、スカートで歩く俺を気遣っているのか、ずっと歩幅を合わせてくれたのはとても助かった。
しばらく黒崎さんと俺はその辺をぶらぶらと散歩するぐらいで、特にどこへ向かうこともなかった。ずっと楽しそうだったし、とりあえず何も言わずに手を引かれるまま付いて行った。服屋に入ればメンズ、レディース問わず俺にあてては似合うと言って褒めてくれていた。
側から見れば、彼女にべた惚れの彼氏にしか見えないだろう。店員さんには「ステキな彼氏さんですねぇ」と羨ましがられ、なんと答えれば良いのか返答に困った。
数ヶ月前までは全部俺が女の子にやってあげたいことだった。それがこんな格好をして、される側になるなんて。ショーウィンドーに映る自分は、どこから見ても身長の高い女の子にしか見えない。それにさっきから褒めてくれるのは、何を考えているのか全く分からない先輩で、なんだか複雑だった。
「振り回しちゃったね、ごめん。少し休憩しようか」
ショーウィンドーの前で溜息を吐いたのを見られ、黒崎さんは俺を覗き込むようにして申し訳なさそうに言った。
「いや、あの」
「ちょっとさ、言いたいことあって」
「……え、俺に?」
黒崎さんは眉をハの字に寄せて困った表情を浮かべながら頷いた。



