「雪弥って、本当に男だったんだね」
 着替えてメイクを落とし、太陽との待ち合わせ場所に向かうと、開口一番に太陽が言った。待ち合わせ場所はあのベンチだ。女装ではない姿を見せるのがここにきて気恥ずかしくなり、着替えに少し時間をかけすぎてしまった。ベンチに座っている太陽は俺を待っている間、終始キョロキョロしていて落ち着きがないのが部室の窓からも丸見えだった。そんな彼を見ていたせいで、自分にも緊張が伝染したのだろう。
「だから言っただろ。俺は男だって」
 えへへと笑う太陽は、あの日のデートの時よりも余裕があって嬉しそうだった。
「それから俺は年上だ」
 そうだったのかと太陽は一瞬だけ驚いた顔をしたが、すぐさま笑顔に戻る。
「なら、俺の好きな人がたまたま年上の男の人だったってだけ、ですね」
 こいつ、どんだけお花畑なんだよ……まったく。
 急に改まって敬語を使われると調子が狂う。俺は短い溜息を吐くと、太陽の額を指で弾いた。
「痛っ!」
「敬語は禁止。たった一歳なんてどうでも良いただろ。ったく……。さっきまで普通に話してきてただろうが。急にヒヨってんじゃねぇよ」
「うぅ……、だって」
「だってじゃなくて。ほら、呼んでみろよ」
「えぇ……それじゃあ……雪弥」
 改めて呼ばれるとこっちが照れてしまう。
「ゆ、雪弥さん」
 なんと返したら良いのが分からず、俺が黙り込んでいると、何を勘違いしたのか太陽が不安そうな声で俺の名前を呼んだ。
「さんって……まぁ良いや。ほら、置いてくぞ」
「えっ、ちょっと待って!行くってどこに?」
 慌てて俺の横に並び、自然と手に持っていた着替えやメイク道具を入れている大きな荷物を俺の手から受け取る。
「良いよ、重くないから」
「これぐらいやらせて欲しいんだ。ほら、えーと……カレシの特権……?」
 真っ赤になりながらも格好つける。台無しとは言わないが、やはりしまらない。
「あのな……太陽」
「なに?」
「俺、まだお前と付き合うなんて言った覚えないから」
「えっ、えええっ!だ、だってこの流れって普通はっ!」
「あははっ」
 真っ赤だった顔から一気に熱が引いて行くのがわかり、ころころと変わる表情が少し可愛く見えた。