ぽっかりと大きな穴が開いてしまった。この間までの数日間は全てに満たされていて、すごい楽しかったのに。あの日のことは全然思い出せなくて、ましろちゃんとお店でパスタを食べた終えたところの記憶で止まってしまった。いや、止めていた、というのが半分正解な気がする。あの人が「自分は男だ」と言い張ったあの瞬間、全てを夢だと思って信じなかった。いや、信じることができなかった。きっと、この間のあの先輩達と一緒に俺をからかって楽しんでたのかもしれない。俺も信じやすいし、単純なのはわかっている。あの人が最後に寂しそうに言った「楽しみにしていた」という言葉も取ってつけたもので、きっと本心ではないだろう。
きっとそうだ、きっと。
楽しかった記憶に蓋をし、この間のことをなかったことにしていく。サークルの仲間と会って遊んだり、バイトに時間を使ったりすればそんなことは考えなくて済む。余計なことを考えないように、俺はスケジュールを埋めながら残りの春休みを過ごした。
「勧誘期間?」
バイトの先輩がどうしてもというからシフトを一週間分交換していたら(その方がましろちゃんのことも考えなくて済んだし)、知らないうちにサークル大事な話し合いに欠席していたようで、明日から設けられる新入生の勧誘期間初日の担当になっていた。
春休みも終わり、今日はシラバスを片手に時間割を組み立てをするだけだったはずが、サークルの部室に行く羽目になってしまった。
「それ、なにするの?」
「ビラとか配って適当に声かけるんだよ。お前もされただろ」
「されたけど、もう一年前だし……」
ふわりとした記憶が浮かぶ。色んなサークルのビラを貰った気はするが、よく覚えていない。
「ジジイかよ、一年前ぐらい覚えてろって」
そんなことを言われたって、俺は結構あがり症で、大学に入学したすぐの頃なんか友達ができるかできないかで毎日バクバクの心臓で登校していたんだぞ……!
そんな俺が勧誘期間なんていう初っ端の記憶を鮮明に語れる方が不思議だろう。先輩達に流されるまま、結局一番最初に声をかけてきたこのバスケットサークルに入ったのだ。まぁ、話せる友達ができたのは有り難いと思っているけど。本音を言えばもう少し考えて所属するか否かを決めたかったところだ。
「まぁ、いいや。これが準備物」
簡易的に必要事項だけがまとめられたプリントを渡された。準備物といっても机や椅子を外に出すぐらいで終わりそうだ。
「可愛い子がいたら、絶対に逃すなよ」
「新入生に手出すなよ……」
小さな声でツッコミを入れるが、思わず呟いた言葉が自分へのブーメランにも聞こえて嫌気がさす。自分だって少し前に可愛いと思った女の子に声をかけて、しまいにはその日のうちに告白までしてしまっている。その件は忘れようとしているのに、男だと聞いてからの方が気になって仕方ない。あの日は驚きのが大きい上に、騙されたと強く思ってしまった。自分が数日間有頂天になる程思い焦がれた相手が同性と聞いて、ショックを受けない訳がない。しかし、数日あけた今では、内心落ち着き始めている。というよりも、寧ろ更に気になって仕方ない存在になっていた。ほんの少しの同情から生まれた歪な関係に、今も縛られていているのは正直嫌になる半面、なんであの時、きちんとお別れが出来なかったのかと、日に日に自分が嫌になるばかりだった。全面否定するようなあんな態度、取らなければ良かったと後悔が募る。それと同時に、彼が俺に見せていた笑顔は偽物だと思いたくない、全部をまるっと信じたくない気持ちが募って仕方ない。
もう一度会えたら……、なんて思うが会えたところで何を話せば良いのかは分からない。そもそも本来の姿を知らない俺は学内で彼を探す術すらない。罰ゲームって聞いた時点で彼の女装も趣味でも何でもないのだ。あの格好で偶然出会うなんてことはもうないだろう。だが、どうしたって気になって仕方ない。もう一度会えるなら……。今の俺なら男の姿のままでも彼を見つけられる気もする。そうやって複雑な思いが入り混じり、毎日頭痛に悩まされていた。
きっとそうだ、きっと。
楽しかった記憶に蓋をし、この間のことをなかったことにしていく。サークルの仲間と会って遊んだり、バイトに時間を使ったりすればそんなことは考えなくて済む。余計なことを考えないように、俺はスケジュールを埋めながら残りの春休みを過ごした。
「勧誘期間?」
バイトの先輩がどうしてもというからシフトを一週間分交換していたら(その方がましろちゃんのことも考えなくて済んだし)、知らないうちにサークル大事な話し合いに欠席していたようで、明日から設けられる新入生の勧誘期間初日の担当になっていた。
春休みも終わり、今日はシラバスを片手に時間割を組み立てをするだけだったはずが、サークルの部室に行く羽目になってしまった。
「それ、なにするの?」
「ビラとか配って適当に声かけるんだよ。お前もされただろ」
「されたけど、もう一年前だし……」
ふわりとした記憶が浮かぶ。色んなサークルのビラを貰った気はするが、よく覚えていない。
「ジジイかよ、一年前ぐらい覚えてろって」
そんなことを言われたって、俺は結構あがり症で、大学に入学したすぐの頃なんか友達ができるかできないかで毎日バクバクの心臓で登校していたんだぞ……!
そんな俺が勧誘期間なんていう初っ端の記憶を鮮明に語れる方が不思議だろう。先輩達に流されるまま、結局一番最初に声をかけてきたこのバスケットサークルに入ったのだ。まぁ、話せる友達ができたのは有り難いと思っているけど。本音を言えばもう少し考えて所属するか否かを決めたかったところだ。
「まぁ、いいや。これが準備物」
簡易的に必要事項だけがまとめられたプリントを渡された。準備物といっても机や椅子を外に出すぐらいで終わりそうだ。
「可愛い子がいたら、絶対に逃すなよ」
「新入生に手出すなよ……」
小さな声でツッコミを入れるが、思わず呟いた言葉が自分へのブーメランにも聞こえて嫌気がさす。自分だって少し前に可愛いと思った女の子に声をかけて、しまいにはその日のうちに告白までしてしまっている。その件は忘れようとしているのに、男だと聞いてからの方が気になって仕方ない。あの日は驚きのが大きい上に、騙されたと強く思ってしまった。自分が数日間有頂天になる程思い焦がれた相手が同性と聞いて、ショックを受けない訳がない。しかし、数日あけた今では、内心落ち着き始めている。というよりも、寧ろ更に気になって仕方ない存在になっていた。ほんの少しの同情から生まれた歪な関係に、今も縛られていているのは正直嫌になる半面、なんであの時、きちんとお別れが出来なかったのかと、日に日に自分が嫌になるばかりだった。全面否定するようなあんな態度、取らなければ良かったと後悔が募る。それと同時に、彼が俺に見せていた笑顔は偽物だと思いたくない、全部をまるっと信じたくない気持ちが募って仕方ない。
もう一度会えたら……、なんて思うが会えたところで何を話せば良いのかは分からない。そもそも本来の姿を知らない俺は学内で彼を探す術すらない。罰ゲームって聞いた時点で彼の女装も趣味でも何でもないのだ。あの格好で偶然出会うなんてことはもうないだろう。だが、どうしたって気になって仕方ない。もう一度会えるなら……。今の俺なら男の姿のままでも彼を見つけられる気もする。そうやって複雑な思いが入り混じり、毎日頭痛に悩まされていた。



