【5/22 紙版発売!】   魔術師は死んでいた。

 その脱皮というものだが。
 怪我をした時に中の水を取り替えるのと同時に、体表面の皮膚に当たる膜も新しいものに新調するらしい。
 新調すると言っても、一番表面のものは水に溶けていくというだけ。
 怪我をした部分は損傷部分が再建されるか、生え変わるかのどちらか。
 そこで取り出したるは、あの場にあった水。
 ホローテの足元と同じ魔法陣を別の場所に展開し、中央には水を置く。
 同様に魔力を流し、詳細を確認する。


「……はあ、なるほどなあ」

 ―― なんて書いてあるんですか?

「この水にはホローテの脱皮した膜が溶け込んでる」





 ―――――……




「確かに、味が違うわ」
「この違和感のある部分が、ホローテの脱皮した膜の味ということになりますね」


 昨夜、スグサさんに教えてもらった話を、クザ先生にそのまま伝えに来た。
 早朝にもかかわらずすでに起きていて、部屋に招いてくれた。
 そういう予感がしたのだという。

 二つのティーカップに注いだ紅茶。
 クザ先生が持ってきた紅茶の本来の味を取り戻したのは、あらかじめ保管しておいた水の方だった。
 療養院で使っていた地下水で注いだ紅茶は、泊まり込みをしてから飲んでいた味と同じもの。
 紅茶は湿気っていたわけではなく、水に要因があったあったということの裏付けだ。


「ホローテの脱皮した膜にはホローテの性質が残っていて、それを飲んだり、体を洗ったりすることで私たちも取り込んでいたということですね」
「わたくしたち泊まり込み組はまだ日が浅いから、症状としてはあまりでていなかったのですね」
「はい。しかし療養院の人たちは長いこと摂取しています。体に害はないと思いますが、一応見ておいた方が安心かと思います」


 病気を治す性質は持っていないというホローテ。
 だから、この療養院の人たちの病気はほとんど治っていない。
 治った人は本人の治癒力や薬の効果だろう。
 寝たきりになった人たちは、考えられるのは病気の進行。
 それと、あの反応が薄いホローテの特徴からなのかもしれない。
 どちらにしても、摂取した『脱皮』という性質のせいで垢が大量に出て、反応がほぼない寝たきり、かつ絶食状態になっても老いを悟らせず生き永らえてきた。
 言うなれば、半・ホローテ化というべきか。


「では、今寝たきりになっている人たちについて、ヒスイさんはどう考えていますか?」


 どきり、と心臓が跳ねる。
 考えはある。
 スグサさんも同意した。
 だが正直、聞かれたくなかった。


「……わかりました」


 黙ったままでいると、クザ先生は常備水で入れた紅茶を一口飲んだ。
 声を出さずにいる私を置いたまま、ティーカップも音を立てずに置く。


「わたくしも同意見です。ヒスイさんが言いたくないことと」


 ああ、やっぱり。
 そうなんだな。
 この場には二人しかいないが、三人とも同意見。
 形的に二人寄っても文殊の知恵は出てこなかった。
 もう一人連れてくれば、何か浮かぶだろうか。
 頭の中で悪あがきをしても、仮の三人目が「諦めろ」と冷たく言い放つ。
 考えまで筒抜けではなかったはずなんだけど。


「今日を入れて、あと半分です。職員には私から話しましょう」
「……ナオさんたちには私から話してもいいですか?」


 朝焼けの光が、窓から差し込んでくる。
 照らされた先生の顔はいつもの柔らかい表情ではなく、硬く真剣な顔だった。


「ナオさんはじじさんのことを本当の祖父のように慕っていました。だからこそ、そのことを知ればナオさんは……」
「大丈夫です」


 危険を冒してまでついてきてくれたナオさんに、全ての説明も含めて私の役目だと勝手に思っている。
 巻き込んでし合った責任は果たさないと。
 渋々たが了承してくれたクザ先生と、少し早い朝ご飯を食べた。
 ナオさんたちに話すのは早い方が良い。
 ホローテたちは私が全て回収した。
 ならば地下水は今日には通常の水に戻る。
 今まで毎日摂取していた水が通常のものになれば、今寝たきりの人たちは遠からず、ということ。
 その時はいつ来るかわからないけど、心構えは、なるべく早くに。
 ……と言っても、少なくとも仕事が終わってからにしようということになったので、平静に仕事をするのが大変だった。





 ―――――……





 仕事終わり。
 療養院の人たちを部屋に送り、職員も帰宅やゆっくり過ごしている時間帯。
 どこか近くに静かに話せる場所がないかと思って、でも近隣の状況は詳しくなくて。
 何とか思いついた場所が、ホローテの居た場所だった。
 入り口となる魔法陣は消されていたけど、出口となる魔法陣を念のため記録しておいた。
 それを辿って、スグサさんが魔法陣を教えてくれた。
 転移先は道中ど真ん中だったので、少し歩いて移動する必要がある。
 同級生三人と、ランタンを一人一つ持って、土のトンネルを進む。


「すごいねー」
「肝試しというか、探検というか。ていうかそもそも夜にこうやってると休みだなって感じー!」
「確かにー!」


 わきゃわきゃとはしゃぐライラさんとセンさんに対し、ひたすら黙ったままの私とナオさん。
 二人がいなかったらひたすら沈黙しかなかったな。
 重い空気のままでは話し出すのも大変だったと、まだマシと感じる雰囲気で考えていたところ。
 ホローテたちがいた開けた場所に出た。
 周辺の生物を探るが、生体反応はない。
 ホローテはすべて回収できたかな。
 水辺の近くに石を並べて、丸くなって座る。
 終始うつむいたままのナオさんに、はしゃいでいた二人も黙り込んでしまっていた。
 意を決して、口を開いた。





 ―――――……