【5/22 紙版発売!】   魔術師は死んでいた。

「……」


 光が消えて、人の気配も消えた。
 足音も他の生き物もいなくなり、ただただ小川のように小さい水の音が流れる。
 それは安心を与えるという効果は得られず、なぜか集中して周囲を探る。
 いないとわかっている。
 いないはずなのに、「もしかして」と思ってしまう。
 通路の全域。
 水のある空間の全域。
 明らかに土の中も探って、探って、探って、ようやく大きく息を吐けた。


「……はあぁぁぁあー」
「ふー……」


 私よりも緊張しているように見えたけど、私の方が緊張していたかのようなリアクションの差だ。
 二人して呼吸が浅くなってしまっていて、安堵から心臓が思い出したかのように活動を再開する。
 ばくばくする。


「行きましたよね」
「た、たぶん」


 何度も確認したけれど、もう一度確認。
 魔力を探る。
 そして確かに誰もいないだろうということを確信にして、隠れていた場所からこっそりと顔を出す。
 私たちが隠れていたのは、実は通路の出入り口の下。
 研究員たちがいた通路と平行に穴を掘っていた。
 まさに灯台下暗し。先を見るために灯を照らすから、足元はより暗く見える。
 探しに行って足が見つかったのが良かった。
 ホローテは気の毒だけど、それが早々に見つかったおかげで、通路の下は探られなかったのだとも思うし。
 魔力を探られていたら完全にばれていたと思うし。
 念には念を入れて、目視でも誰もいないことを確認。
 土でできた壁を風でえぐり、狭い空間から解放された。
 最小限のスペースだったから、二人とも体育座り状態だった。
 二人して立ち上がっては、両手を大きく上げて伸びる。


「戻ってくるとしても通路の奥からでしょうが、今出ると鉢合わせの可能性もありますかね」
「た、確かに」
「じゃあそれまで、ここで静かに過ごしていましょう。時間をおいてから脱出します」


 土を背に座り込む。
 活動時間より緊張のせいで疲労が溜まっている。
 まさかベローズさんがいるとは思わなかった。
 あの人の声はまだトラウマだな。
 声すらも聴きたくない。
 私に倣ったのか、二人分ぐらいの間隔をあけて、ナオさんも同じように座り込んだ。膝を抱え、その膝を見つめ、縮こまる。
 静かにと言った手前、話しかけるのはいかがなものだろうかと思うのだけど。
 まあ黙っているだけというのも間が持たない。
 と思っていたのだが。


「じじ、治るかな」


 ぽつり、と呟いた。
 聞いてきているのかはわからない。
 答えるべきだろうか。
 答えるべきだろうな。
 ここまで来てもらったんだし。


「わかりません」
「え……」


 膝を見ていたであろう目と顔が、私の方を向いた。
 私はその視線を避けるように、顔は前に向けたまま、見えていないはずの目だけを向けた。


「じじさんが寝込んでしまった理由が、現状わかっていません。今回のホローテの件がヒントではないかとは思いますが、具体的な追及はこれからです。むしろホローテが関わっていないとしたら、初めからに戻ります」
「そんな……」


 酷なことだと思う。
 少なからずの期待を持たせてしまうのはわかっていたから。
 嘘をつくのも違うので正直に答えた。
 結局、傷つけてしまっているのだが。


「……今日、戻ったら、早々に調べます。そして早く報告に上がります」
「……う、ん」


 心ここにあらず。
 上の空。
 膝の頭に視線を移し、声は今までで一番小さくてほとんど聞こえない。
 この状態では話なんてできる状態でもない。
 そうさせたのは私だけど、反省をしても改善ができない。
 ので、余計なことはこれ以上言わないことに努めた。





 ―――――……





「じゃあ、始めるか」


 あのあと、弟子は地上の様子を探ってから、脱出用の魔法陣を使用して地下から移動した。
 日暮れとは言わない程度に日が傾いており、午前中から随分な時間が経過していた。
 地下にいたらやはり時間間隔が狂うようだ。
 地上に出て急いで療養院に戻り、何食わぬ顔で医術師(クザ)と合図を交わす。
 詳細はの後ほどということで接触は少なく、夜までは医術師の見習いとして過ごしていた。
 ちなみに目隠し君は、話しかけず、遠い位置で仕事に励んでいる様だった。
 そして現在。
 部屋の真ん中の魔法陣の中に、一体のホローテ。


 ―― この魔法陣は?

「ま、私様専用のものだな。調査のためによく使ってたんだ」


 主に生態調査の。
 今回はうってつけだろう。
 私様もホローテについては調べたことはほとんどない。
 こうして元気な個体は初めてだ。
 今までは剝製や四肢だけだったりだったな。
 床に描かれた魔法陣に足の裏を向ける。
 次第に薄く光り、ぼーっとしているホローテを下から照らす。
 相も変わらず逃げる様子もない中のそいつの周りに、文字が浮き出ては消える。


「……ほうほう。ふむ。……へー。ああ、なるほど」


 この個体の情報、種族の情報が文字となって提示される。
 そこで分かったことは、このホローテという種族。
 『不老』というのは本当らしい。
 正しくは『脱皮をすることで怪我を治癒し、老いを悟らせない』というもの。
 見た目が老いないだけで、ダメージの蓄積や寿命はあるらしい。
 なので『死』という概念はある。