【5/22 紙版発売!】   魔術師は死んでいた。

 多少の湾曲はあったが、ここまでの道のりは一直線だ。
 何かを目的に掘り進めていたのか。
 ほぼほぼ真横。
 地質調査ならば縦に掘り進めていてもいいはずだが。


「あ、ヒスイさん」
「はい?」
「突き当りの足元、魔法陣が書かれてます」


 行き止まりのすぐ下に、確かに魔法陣が書かれている。
 流れからするとあれが帰りの魔法陣だろうか。
 ならばと思い、魔法陣の一歩手前まで進む。
 魔法陣を読み取ったスグサさんが頭の中で「これだ」と断定。
 発動条件は入り口と一緒。
 これで帰る方法は見つかった。


「なにも、なかった?」
「現時点ではそうなりますね」
「じゃ、じゃあ、じじたちは……」


 意気消沈。
 その言葉の通り、決した意が水底に沈んでいったように声を落とす。
 何かあると信じて協力してくれたのだろう。
 裏切ってしまったような形になってしまって、何割かは心苦しくはある。
 しかし残りの何割かは諦めてはいない。
 何を目的に掘り進んでいるのか。
 それが知りたい。
 魔法陣を素通りし、突き当りの土に触れる。
 土には詳しくないので、何も変哲もないようにしか見えない。
 しかし私の視界には、土の先の景色が映る。


「……ナオさん」
「は、はい」
「ウーパールーパーってご存じですか」
「は?」


 聞き取れなかったかな。
 ウーパールーパーは何とも言えない顔をした水生生物。
 癒し系に分類されるのだろうか。
 爬虫類系の見た目に顔からエラ? が生えている。
 サンショウウオだかサラマンダーとか言われていたと思う。
 水生生物なのに。 
 なぜそんなことを言い出したかと言うと、いるからだ。
 土の向こうに。
 それも沢山。
 ついでに水もある。
 振り向いたら後ろに寄ってきていたナオさんに、一つ確認したいことがある。


「療養院の水ってどこから調達していますか?」
「敷地内の井戸から……汲んでます。か、加熱処理をしてから、使ってます」
「じゃあ……なんと表現したらいいか迷うな。なんていうんだろうあの顔」
「か、かお?」


 んー。
 見てもらえたら楽なのに。
 どうにかこの壁を通過できないかな。


 ―― 通りたいか?


 ……なんか、「力が欲しいか?」みたいに聞かれてる。
 ここは素直にしておこう。


 通りたいです。

 ―― 風で周囲を削る。それをそのまま押し出す。通り終えたら戻す。

 ああ、なるほど。そうします。


「少し下がっていてください」
「え、うん……」


 ランタンを腕にかけ両手を前面に出し、風の魔法を使う。
 丁度いい魔法は思いつかなかったので、コントロール重視で初級魔法にした。
 丁度通路と同じぐらいでくり抜く様に。
 初級魔法でいいのだから、本当、魔法って使い方だな。
 コントロールも練習しておいてよかった。
 土が崩れないように、風で囲む。
 そしてところてんの要領で、少しずつ押し出していく。


「ええぇ……」


 後ろから声が聞こえるが、集中しているので反応はできない。
 なにせ電車三両分ぐらいの長さのところてんだもの。
 じわじわと、一歩一歩踏みしめながら、推し進めていく。
 地下だから熱くはないのに汗がしたたり落ちる。
 『透視』で、押し出している方を見る。
 
 なんと。
 まさか。
 ウーパールーパーたちはまったく見向きもしていなかった。
 いや、見てはいるのだが「なんだあれ。まあいいか」みたいにほぼ反応がない。
 中身もウーパールーパーか。
 ……これは一応褒めてる。
 逃げないでくれてありがとう、とても嬉しいよ。
 ようやく車両一本分を歩き終えたが、休息はむしろコントロールを損ないそうなのでこのまま突き進む。
 そんな真剣な雰囲気を察してか、ナオさんはただ静かに、後ろをついてきている。
 話しかけないでくれて本当有難い。


「あ」
「え」
「いえ、もう空きますので、先に隙間から通ってください」
「えっ、あ……うん」


 先に行きたくはないかもしれないが、今回ばかりは譲れない。
 いや譲る。
 宣言して、最後の(ひと)ずらし。
 小柄なナオさんがやっと通れるほどの隙間を開けて、即座にナオさんが体を滑り込ませる。
 まさに意を決してという勢いだった。
 隙間の先は崖のようになっていて、下へ下へと空間が広がっている。
 といっても
 そんなに深くはなく、腕のランタンで落ちた先が見える程度だ。
 ナオさんが降り切って、真下から移動したのを確認し、自分は風を纏って浮遊する。
 浮遊したうえで、くり抜いた土のところてんを慎重に押し込めていく。
 出すより入れる方が簡単な気がする。


「……よし」


 あー、疲れた。
 入れ切ってすぐさま魔法を切りたかったが、自分が落ちてしまうので寸の所で思いとどまる。
 ナオさんの所にゆっくり降りて、へたり込んだ。


「だ、大丈夫……?」
「はい。少し疲れただけです」
「少し?」
「いえ大分」


 これをやったら一般的には「少し」に入らないのか。
 スグサさんと訓練している時はもっと疲れていたけど。
 やはり。
 スグサさんが示す基準は当てにならない。
 それは置いておいて。時間に余裕はないのだ。
 確認は早々にしてしまいたい。
 腕にかけていたランタンを持ち直し、体勢も立て直す。
 水の音がする場所に近づいて行けば、こちらを見上げる癒し系の生物がこちらを見上げている。