【5/22 紙版発売!】   魔術師は死んでいた。

 四日目の夜。
 またクザ先生とその日に会った話をする。
 何かあるのではないかと不安に思う人が増えてきて、この状態は無視できなくなってきた。
 クザ先生が療養院の人に話を聞きに行き、療養院側の考えを教えてくれた。

 寝たきり状態になる人は私たちが来る前から数人はいたようで、多くて三人程度だった。
 その方たちの中で亡くなったのは二人。
 どちらも苦しまず、穏やかな最後だったという。
 療養院ならば数人寝たきりがいるのは何ら不思議なことではない。
 なので職員が疑問に思っているのは、寝たきりよりもむしろ、垢の多さだった。
 寝たきりの人の共通点はやはり、排出される皮膚の多さ。
 何皮膚(かわ)剥けているんだと真剣に問うぐらい剥けている。

 現在の総人数をまとめると。
 状態が悪い人が二十五人。
 そのうち、寝たきり状態が二十人。
 かつ垢が多い人が十三人。
 総人数が七十人。
 約三分の一がそんな状態だった。


「クザ先生はどのように考えていますか?」
「そうですね……考えたくはありませんが、何かの病気、でしょうか」


 私も同意見だ。
 こんなに一斉に寝たきり状態になるだなんて、偶然にしては出来すぎている。
 なにか原因があると思うのだが……。
 という時に、思い出したのが、白衣の人たち。


「私たちがここに来た日、お城の研究員さんたちがいたのですが……」
「ああ、それはこの土地の地質調査に来たようです。研究の一環のようですね」


 と、職員たちが言っていたと。
 なるほど。秘密裏に動いていたわけではないのか。
 秘密裏ならもっとコソコソするか。
 この数日、毎日のように白衣の人たちを見かけていた。
 終えるときは追っていたのだが、やはりあの魔法陣に一直線に向かっていた。
 地質調査という名目であれば、やはり、地下に何かがあるのだろうか。


「ヒスイさんは、研究員が何か関わっていると考えていますか?」
「……確証はありません」


 そう、確証はないのだ。
 明らかにこれをやっていたと言えるわけではない。
 本当に地質調査に来ているだけかもしれない。
 ただ私が、『お城の研究員だから』というだけで疑っていると言われても、否定はできない。


「正直なところ、わたくしも研究員には信用がありません」
「そうなのですか?」
「ええ。ヒスイさんの話を聞いてから。陛下のこともありましたしね」


 陛下の死因を調べさせてくれないことが大分尾を引いているようだ。
 普段は菩薩のように優しい目と顔をしているのに、研究員の話をしたとたんに訝し気で不快そうなお顔をした。
 普段怒らない人が起こると怖いというのは本当らしい。
 クザ先生にもこんな顔をさせる研究員。


「ヒスイさんに一つお願いがあります」
「なんでしょう」
「明日一日、研究員の行動について調べてくれませんか? こちらのことはわたくしが受け持ちますので」


 スグサさんの『記憶』が存在し、体の操作を切り替えることができるということはクザ先生は知らないはず。
 なのに私に頼んでくるというのは、何かを意図してのことなのか。
 ……ともあれ。
 何かを意図していたとしても、クザ先生ならいいかな。


「わかりました。あ、でも、地下に行く魔法陣が二種類以上の魔力が必要みたいです」
「そうですか。でしたら誰かに同行をお願いしましょうか」


 お供、か。
 この場合は隠密行動ができることが条件。
 かつ信用に足る人。
 絶対条件ではないが、ある程度緊急時にの逃げの対応ができる人というのが条件か。
 となると職員は向かない。
 知った人ということならばライラさんとナオさんとセンさんだが。


「ナオ君が適正でしょうね」
「私もそう思います。明日声をかけてみます」
「そうしてください。ヒスイさんなら大丈夫と思いますか、もし嫌がったら、無理強いはしないように。今日はこれで休みましょう」


 いつもと同じように、残った紅茶を飲み干す。


「この紅茶はクザ先生のお気に入りなんですか」
「そうなの。やっぱり泊まり込みってなると肩の力を抜くのも大変だと思って持ってきたのだけど……」
「? どうしたんですか?」
「湿気っちゃってたのかしら、少し味が違うのよね」


 はて。
 と口元に手を当てて小首を傾げる。
 目には見えない何かが宙を舞った。





 ―――――……




 一日休んで、次の日。
 療養院に着て五日目になった。
 朝食が終わり、いつもなら回診をしている時間帯。
 研究員たちが来るのは決まって昼食の時間帯なので、午前中に調べに行こうと考え行動中。
 行先はもちろん、魔法陣。


「なんで僕なの……」
「さっき説明した通りです」


 ライラさんじゃバレる可能性が高いし、センさんはこの場に詳しくない。
 地下だからナオさんも詳しいわけではないかもしれないけれど、どちらかと言えばナオさんという結果。
 先生も言っていたし。


「療養院にいる皆さんのためです。協力してください」
「うう……」


 卑怯な言い方で申し訳ないとは思いつつ、今回ばかりは一人ではどうしようもない。
 スグサさんがいるとはいえ、魔力二種必要という条件に対応できるかわからないし、クザ先生に説明のしようがない。
 とはいえ、ナオさんに協力してもらった後、出口に続く魔法陣を見つけないことには解放してあげられない。
 言ってしまえば道連れだ。
 魔法陣がある場所が見えてきたところで、ナオさんに体を向ける。
 そして、頭を下げる。


「巻き込んでしまってすみません。必ず守りますので」