「お湯持ってきたよーおっもー」
「部屋、寒くない、かな?」
「じじさん、横向きますね」
「背中拭くよー!」
分担して、体を丁寧に拭いて行く。
何日間か入っていないのか、ベッドは垢が多い。
体からも出るし、フケも沢山。ただし抜け毛は少ない。
じじさんは眠いのか、体を拭いている最中に返事をすることはなかった。
結構声もかけたんだけど、目も開かないし、身じろぐこともない。
黙り込んでしまうような人には見えなかったけどなあ。
体を全身拭いて、頭も洗って、新しい服に着替えた。
ついでにベッドシーツも交換。
「じじさん、何か気になることはありますか?」
……返答なし。
「寝っちゃったんかねえ?」
「じじ最近よく寝てるよね」
「……心配」
お昼は少し食べたようだが、瘦せ型の体型を見て、栄養状態はあまりよくないように思った。
あばら骨は浮き、四肢は冷え、体重は軽い。
療養院にいるのはつまり、終末期なのだ。
じじさんの先は、実際あと数えられるぐらいかもしれないなあ。
「じゃあ、行きましょう」
「うん。じじーじゃあねー!」
私の勝手な考えはおくびにも出さず、寝ているように見えるじじに声だけかけた。
入るときはあった声は、帰りにはなく。
ナオさんが最後まで見つめていた。
そして何人か回り、じじと同じような人が数名。
まるで眠っているかのように反応は薄く、体はやせ細り、先は長くないのだと感じさせる雰囲気。
そして、共通点はもう一つ。
「……あー」
センさんが、一人小さな声でつぶやく。
ベッドのシーツや着ていた服から、大量の粉状のものが舞う。
まあ、体から出る皮膚なのだが。
過剰な反応をすると元の持ち主を傷つけてしまうかもしれない、そういう配慮がセンさんの中にもあったのだろう。
私は弱い風の魔法を使い、雪のように舞い散った粉状のそれを、一まとめにする。
「お邪魔しましたー」
そして部屋から出て、通路の窓からまとめたものを開放する。
風に飛ばされ、散っていった。
「今のばーちゃん、そんなに風呂入ってないっけ?」
「僕、覚えてる。確か一昨日入ったよ」
「私も覚えてる! お話ししたもん。気持ちよさそうにしてたけどなあ」
今の寝たきりのお婆さんも、じじさんと同じような状況だった。
寝たきりの状態なのは置いておいたとしても、フケや垢の量は……説明がつかない。
「薬の副作用とかかなー?」
「ヒスイっちが詳しいんじゃね?」
「何を飲んでるのかわからないけど、調べてようかな。じじさんの状態も気になるし、クザ先生にも相談してみるよ」
急を要するものかの判断もつかないし、一応報告だけはしておこう。
そのためには、誰がどういう状態だったかをメモしておこうか。
後でまた回っておこう。
―――――……
夜。クザ先生と応接室にいる。
クザ先生が入れてくれた紅茶を飲みながら、今日のことを報告した。
「そうでしたか。十六人も」
状態があまり良くはなさそうな人とひとくくりにすれば二十人は超えていたのだが、じじさんのように寝ている様に反応がない人、かつ異様なほどに垢が多い人を列挙したら、十六人だった。
垢の量は、風でまとめた時にバスケットボール大の玉ができたのが最高だった。
ちなみに空気は含まず。
数日間で出た垢の量って、よくは知らないけど、多すぎると思うんだよなあ。
「わたくしが診察していた人の中でも、同じように垢が多い、フケが気になると言った訴えの人が何人かいました」
「でも、話せたんですね」
「そうです。その人たちは外に出たり、食事を一人で食べたりすることができる人たちです」
「同じ薬を使っている、原材料が同じ、とかは……」
「調べましたが、全員に共通することはありませんでしたね」
となると。
薬には関係がないとみてみるか。
そのかわり、主張は寝たきりの人に限ることではない。
私たちのような職員側には今のところそういう訴えは聞かれない。
まあ、毎日入っているせいもあるかもしれないので、試してみる価値はあるかもしれないが。
それよりも、一番気にするべきこと。
「体に害はあるのでしょうか」
「何とも言えません。現在、この場以外で同じような症状は報告されておらず、また文献にもありません」
世界的に見て珍しい……初めてのことかもしれない。
そうなると厄介だ。原因もわからず、治療的な方法もわからない。
というか、自分たちで見つけなければならないのだ。
私は医者じゃない。
病気の治療はできない。
できるのは、日常生活動作の改善や機能訓練だ。
……とも言ってられないかな。
「今日はこれで休みましょう。まだ数日はありますからね。体調を崩さないように、私たちも気を付けましょう」
「はい」
残っていた紅茶を飲み干した。
美味しいなあ。独特な味と香りだけど。
初めて飲んだかな。
紅茶が好きなクザ先生の持参品かな?
座っていたソファーから立ち上がった。
「部屋、寒くない、かな?」
「じじさん、横向きますね」
「背中拭くよー!」
分担して、体を丁寧に拭いて行く。
何日間か入っていないのか、ベッドは垢が多い。
体からも出るし、フケも沢山。ただし抜け毛は少ない。
じじさんは眠いのか、体を拭いている最中に返事をすることはなかった。
結構声もかけたんだけど、目も開かないし、身じろぐこともない。
黙り込んでしまうような人には見えなかったけどなあ。
体を全身拭いて、頭も洗って、新しい服に着替えた。
ついでにベッドシーツも交換。
「じじさん、何か気になることはありますか?」
……返答なし。
「寝っちゃったんかねえ?」
「じじ最近よく寝てるよね」
「……心配」
お昼は少し食べたようだが、瘦せ型の体型を見て、栄養状態はあまりよくないように思った。
あばら骨は浮き、四肢は冷え、体重は軽い。
療養院にいるのはつまり、終末期なのだ。
じじさんの先は、実際あと数えられるぐらいかもしれないなあ。
「じゃあ、行きましょう」
「うん。じじーじゃあねー!」
私の勝手な考えはおくびにも出さず、寝ているように見えるじじに声だけかけた。
入るときはあった声は、帰りにはなく。
ナオさんが最後まで見つめていた。
そして何人か回り、じじと同じような人が数名。
まるで眠っているかのように反応は薄く、体はやせ細り、先は長くないのだと感じさせる雰囲気。
そして、共通点はもう一つ。
「……あー」
センさんが、一人小さな声でつぶやく。
ベッドのシーツや着ていた服から、大量の粉状のものが舞う。
まあ、体から出る皮膚なのだが。
過剰な反応をすると元の持ち主を傷つけてしまうかもしれない、そういう配慮がセンさんの中にもあったのだろう。
私は弱い風の魔法を使い、雪のように舞い散った粉状のそれを、一まとめにする。
「お邪魔しましたー」
そして部屋から出て、通路の窓からまとめたものを開放する。
風に飛ばされ、散っていった。
「今のばーちゃん、そんなに風呂入ってないっけ?」
「僕、覚えてる。確か一昨日入ったよ」
「私も覚えてる! お話ししたもん。気持ちよさそうにしてたけどなあ」
今の寝たきりのお婆さんも、じじさんと同じような状況だった。
寝たきりの状態なのは置いておいたとしても、フケや垢の量は……説明がつかない。
「薬の副作用とかかなー?」
「ヒスイっちが詳しいんじゃね?」
「何を飲んでるのかわからないけど、調べてようかな。じじさんの状態も気になるし、クザ先生にも相談してみるよ」
急を要するものかの判断もつかないし、一応報告だけはしておこう。
そのためには、誰がどういう状態だったかをメモしておこうか。
後でまた回っておこう。
―――――……
夜。クザ先生と応接室にいる。
クザ先生が入れてくれた紅茶を飲みながら、今日のことを報告した。
「そうでしたか。十六人も」
状態があまり良くはなさそうな人とひとくくりにすれば二十人は超えていたのだが、じじさんのように寝ている様に反応がない人、かつ異様なほどに垢が多い人を列挙したら、十六人だった。
垢の量は、風でまとめた時にバスケットボール大の玉ができたのが最高だった。
ちなみに空気は含まず。
数日間で出た垢の量って、よくは知らないけど、多すぎると思うんだよなあ。
「わたくしが診察していた人の中でも、同じように垢が多い、フケが気になると言った訴えの人が何人かいました」
「でも、話せたんですね」
「そうです。その人たちは外に出たり、食事を一人で食べたりすることができる人たちです」
「同じ薬を使っている、原材料が同じ、とかは……」
「調べましたが、全員に共通することはありませんでしたね」
となると。
薬には関係がないとみてみるか。
そのかわり、主張は寝たきりの人に限ることではない。
私たちのような職員側には今のところそういう訴えは聞かれない。
まあ、毎日入っているせいもあるかもしれないので、試してみる価値はあるかもしれないが。
それよりも、一番気にするべきこと。
「体に害はあるのでしょうか」
「何とも言えません。現在、この場以外で同じような症状は報告されておらず、また文献にもありません」
世界的に見て珍しい……初めてのことかもしれない。
そうなると厄介だ。原因もわからず、治療的な方法もわからない。
というか、自分たちで見つけなければならないのだ。
私は医者じゃない。
病気の治療はできない。
できるのは、日常生活動作の改善や機能訓練だ。
……とも言ってられないかな。
「今日はこれで休みましょう。まだ数日はありますからね。体調を崩さないように、私たちも気を付けましょう」
「はい」
残っていた紅茶を飲み干した。
美味しいなあ。独特な味と香りだけど。
初めて飲んだかな。
紅茶が好きなクザ先生の持参品かな?
座っていたソファーから立ち上がった。



