魔術師は死んでいた。  【3/27 電子書籍発売予定】

 試験の時とは違い、魔法ではなく玉を投げて的に当てるだけのもの。
 弓道の的のように大小の円があって、中央程得点は高い。
 球は全部で十個。
 二人が同時にできるため、隣同士でやることに。


「嬢ちゃん頑張んな」
「はい」
「待て。俺には声援はないのか」
「おっちゃんはフェミニストさ!」


 玉を渡しながらガハハと笑う、ガタイの良いひげを生やした店主に背中を押され、俄然やる気が出てきた。
 少し拗ねてるカエ様が少し可愛らしくも思う。
 店主から声援を受けたところで、勝負は勝負。
 真剣に取り組む。
 決して媚びを売ろうとは考えていない。うん。
 受け取ったら自由に始めていいスタイルなので、カエ様と目線を合わせ、スタート。

 ……。

 負けた。
 外枠にしか当たらなかった。


「残念だったなー嬢ちゃん」
「残念です。悲しいです。泣きそうです」
「ほら、参加賞だ」
「ありがとうございます」


 このお祭り、というか町のマスコットだというキャラクターのストラップを貰った。
 中央に一回ぐらいは当たると思っていたのだけど、考えが甘かった。
 本当に端っこにしか当たらなくて、玉があちこちに飛び散って拾うのが大変そうだった。投げるたびに謝ったけど。
 逆に、カエ様はほぼほぼ中央が多く、点数は聞かずとも高得点なのはよくわかった。


「おめでとうございます……」
「ありがとう。結構負けず嫌いなんだな」
「そうですね。今めちゃくちゃ悔しくて、再戦を申し込みたいぐらいです」
「受けて立つが、せっかくだから別のにしよう」


 辺りを見回し、他のゲームを探す。
 安全のためか、魔法を使うものはほとんどないようだ。
 ボウリングみたいなもの。
 輪投げみたいなもの。
 金魚すくいみたいなもの。
 時間はまだ余裕があるし、人が増える前に色々遊んでおきたい。


「近場から攻めるか」
「はい。次こそ勝ちます」
「俺も負けず嫌いなんでな。悪いが油断も容赦もないぞ」
「もちろんです。コウ」


 ぱち。と、瞬き。
 そういう勝負だったから、と呼んでみたが、呼べと言った本人が驚いている。
 確かに前触れもなくだったが、硬直してしまうほどだっただろうか。


「コウ?」
「あ、ああ。悪い、驚いた」
「そんなにですか」
「悪かったって」


 やや頬を赤らめるコウは初めて見たかもしれない。
 驚いたことがそんなに恥ずかしいのか。
 隙を見せた、とか、そんなところだろうか。
 気を取り直すように咳払いをして、さあと足を進める。


「はぐれるなよ」
「コウも、気を付けてくださいね」
「もう勝負始まってるのか?」





 ―――――……




 一通り遊びつくし、一直線の端から端までを歩き切った。
 端は飲食スペースが広くとられていて、一時休戦とした。
 コウは飲み物を取りに行ってくれて、私は席をとって待機している。


 ―― よう。


 スグサさんの声が響く。
 人がたくさんいるから、声には出さないようにしないと。
 会話中の視線のやり場に困るので、両手を組んで顔を伏せる。


 ―― 楽しそうだな。

 楽しいです。負けっぱなしで悔しさもありますけど。

 ―― 勝率二割ってところか。運動系はしょうがない。なんせ私様の体だからな。

 運動は苦手だったんですか?

 ―― 研究と魔法に生涯を捧げたんだ。無理もない。


 気持ちいいほど開き直ってる。
 でもそうか。
 もともとの自分の身体ではないからどうにもイメージがずれていたのか。
 今までの動きは魔法で補助していたのもあって動けていたのかな。
 そういえば体力はないほうだったし。


 ―― 私様とも一つやろう。

 え、何を? どうやって?

 ―― 王子サマが何を持ってくるか予想。勝った方が相手の願いを一つ叶える。

 ……じゃあお茶。

 ―― 私様はジュース。

 ちなみになぜ突然?

 ―― 気分。


 気分。
 なるほど。気分というか気まぐれか。
 スグサさんもこの場に体があれば、一緒に楽しんだのだろうな。
 体があればってなんだか不思議な表現だけど。
 ……いや、スグサさんの体は、ここにあるじゃないか。


 ―― ……弟子。

 はい?

 ―― お前、王子サマのことはどう思ってる?

 どう、とは。

 ―― 好き?

 好きですね。

 ―― ……それは恋愛として?


 れんあい。
 ああ、恋愛。
 恋と愛。


 ―― それとも友情?

 友情、というのもどうとは思いますが。慕ってはいますよ。私を自由にさせてくれてますし。

 ―― あくまでそういう立場か。主従というか、上下関係。

 そうですね。

 ―― ふーーーん。


 嘘偽りはない、と思う。
 そもそも一国の王子様にそんな感情を抱くのは、行ってしまえば無駄だと思う。
 貴族でもない、出自もしっかりしていない、研究によって生み出された死体のようなもの。
 コウのことだ。
 第二王子だとしても世継ぎが必要だろうし、そうなると私には難しい可能性が高い。
 理由は言わずもがな。
 こうして一緒に遊べているだけでも、私は一般の人よりも恵まれている。


 ―― ま、いいか。

 なんで突然そんなこと聞くんですか。

 ―― 楽しそうだったから。

 楽しいは楽しいですけど、他意はありません。

 ―― わかったって。そろそろ来るんじゃないのか?


 言われて、伏せていた顔を上げる。
 目の前の少し離れたところにその人の姿が見えた。