魔術師は死んでいた。  【コミカライズ12/26から】

 シャワーを浴びた順で、風呂場が温まっていないことに気付かれたかな。
 最初にベローズさんに「死体」と言われた時から、温めてはいけないのではないかと考えていた。
 最初に目が覚めた時……もうほぼ一年前に温かいシャワーを浴びたきりだ。
 冬は辛かったけど。
 体を保温したり温かいものを飲んだり、そう言うことはできる。
 なので温かいシャワーも大丈夫なのではと頭では考えているのだが、実際に行動には移せない。
 言われただけで、普段出来ていたことが出来なった。
 それ以上は指摘されず、弁解もせず。
 でもそれが苦痛になるようなことはなく。
 次の日備えて眠った。





 ―――――……





「ああ、ここだ」


 街の人たちに尋ねながら、周囲よりも一際大きい家の前に来た。
 敷地も家も庭も、全てが大きい。
 ギラギラ、と言うほど装飾はされていないが、人目を引く程度には豪勢だ。
 街路路に面した門に門兵がいて、声をかけると中へ通してくれた。
 玄関までも歩く。
 建物の扉の手前に、小ちゃくて丸い人がいる。


「ヨウコソお越しくださいまシタ!」


 髪の毛くるんくるん、ちょび髭もワンカール。
 体全身でカーブを描いている見た目は、子ども人気そうだ。
 着ている服は艶やかで、見ただけでいいものだと言うことがよくわかる。
 おそらくはこの人が、ドゥ・マルス様。


「こノ度は遥々オ越し頂き、アりがとうござイます! ササッ、お茶のご用意がありまスので、お上がリくだサイ!」


 引っかかる喋り方をする人だ。
 手元はちょこちょこ、足はパッタンパッタンと、身振りも忙しない。
 歩きに関しては丸い体がどうにも動かしにくそう。
 先頭を歩いて案内された先は、食堂らしき部屋。
 お菓子と紅茶が用意されていて、歓迎する気満々なのが手にとるようにわかる。
 長方形に伸びたテーブルは、短辺の席同士の顔がわかるかどうかと言ったレベルで長辺が長く、普段はどれだけの人数を読んでいるのだろうかと疑問を持つ。
 三人が並んで席につき、冷たい紅茶を出される。
 緊張からなのか、紅茶の香りがわからない。
 マルス様が正面に座った。
 長辺で向かい合っているから、顔はよく見える。


「改めまシテ、(ワタクシ)が依頼主のシルクラス・ドゥ・マルスです。 この度は依頼を引き受けてくダさリ、感謝申し上ゲます!」


 テーブルに両手をついて、深々と頭を下げた。
 テンションはライラさんに似ているところがあるなあ。


「私はコウ・ゼ・フローレンタム。ですが任務中は「カエ」と名乗っておりますので、どうぞそちらでよろしく頼む」
「わカりました! カエ様でゴザいますネ!」


 握手を交わす。


「ロタエ・ドゥ・スピニングと申します。魔術師副団長として、カエ様に同行させていただいております」
「お噂はかネがね! よロしくお願いいたしまス!」


 握手を交わす。


「……ヒスイ、です」
「ヒスイ様ですネ! 慎ましイお方なノデすかナ!?」


 ワッハッハ、と。
 握手を交わす。
 この人は、家名を名乗らなくても対等に扱ってくれるタイプ、なのだろうか。
 ロアさんのこともあったから多少の警戒もありつつ名乗ったが、豪快笑いで流されて、前者二名と同様に握手を交わした。
 ああ、それだけで「良い人かも」と思ってしまう私は単純だなあ。


「デは早速ですガ! ヤビクニの件をお引キ受けいたダいたと言ウことで!」
「はい。この後ギルドに寄ってから向かいます」
「そうですかそうですか! ご健闘をお祈りさせていただきます。して、一つお願いがあるのですが」


 指を一本、天井に向ける。
 意味慎重に無言の時間を設け、目を細めて、声を落とす。


「多少の傷は構いまセんが、なるベく早く体はそのマまでお願いシます」
「そのまま、とは、本体を切断せず、と?」
「その通りでゴざいまス」
「火は?」
「焦げハあまり好みませんネ」


 縛りが増えた。
 足場不安定、火属性魔法は非推奨、切断や刃物の使用もなし。
 接触や近接も危険
 うーん。骨が折れそう。


「聞くが、ヤビクニを買い取って、どうする?」
「食べるンですヨ!」


 今日一の明るい表情で、白く輝かしい歯を見せつけられた。
 ええ……食べるの……、クワガタグッピーを……?
 カエ様もまさか食べるとは思っていなかったのか、口元がひくついている。
 流石のロタエさんは表情ひとつも変えていない。
 膝の上の手は反応してたのは見た。


「アれは美味しいんでスよお! なゼか賛同者がイないのですガ、そレはそれで独り占メできルのでね! よロしければ成功しタ暁ニはご一緒に如何でス?」


 嘘偽りのなさそうな顔でお誘いをいただいたが、三人揃ってひとまず保留にさせて貰った。
 私は絵を見た時から食べるのはないと考えていたが、仮にも貴族で依頼主の人に、問答無用で「NO」とは言えなかった。
 こればかりはしょうがない。


「ヒスイから確認したいことはあるか?」


 代表として話していたカエ様から、話を振られる。
 マルス様の目を見れば、拒否も拒絶も嫌悪もなく、むしろ逆に好奇心を向けられているようにこちらを見ていた。


「では、一つだけ、よろしいですか?」
「一つと言わズ何個でもかまいませんよ!」
「ありがとうございます。お食べになると言うことは、食べられる程度に扱ってきても構いませんか」
「ソれが切ると言ウことでなけれバ構いません。ムしろ有難いですね! よリ新鮮な状態で調理してくだサるのなら、今までデ一番美味しくなるヤもしれませン!」


 ワッハッハ。