私は静かに歩きながら、夜風を感じた。
誠也のことを考えていたけれど、それと同時に、ふと昔のことを思い出す。
――昔、友達に裏切られた。
信じていたのに、気づけば私はひとりになっていた。あのときの冷たい空気、笑い声、自分だけが何も知らなかったあの瞬間。
それ以来、人と深く関わるのはやめた。期待しなければ傷つかないし、どうせまた裏切られるくらいなら、最初から距離を置いていればいい。ずっとそう思って生きてきた。
でも、今日――
「......なんか、違うのかもな」
私はぼそっと呟く。
誠也は怖かった。でも、本当は優しかった。蒼太のことを誰よりも大事に思っていた。サッカー部の連中だって、許せない言葉を口にしていたけれど、誠也の本気に気圧されて、最後には何も言えなくなった。
みんな、ただの「悪い人」じゃない。単純に割り切れるものでもない。
「......私、逃げてただけかも」
裏切られるのが怖くて、人のことを知ろうともしなかった。どうせまた同じことになる、どうせみんな私を置いていく。そんなふうに決めつけて、最初から避けてきた。
だけど、本当は――
「みんな、意外といい奴だろ?」
突然、隣にいた蒼太が呟いた。私は少し驚いて振り向くと、蒼太がいつものように少し肩をすくめて笑っている。蒼太の目は、私の心をよく知っているような、そんな優しさを湛えていた。
誠也も、蒼太も、周りの人たちも。私がずっと遠ざけていた世界には、思っていたよりも温かさがあった。
「......蒼太のおかげ、かな」
「俺はなんもしてないけどな。逆に助けてもらってる側だし」
私は軽く首を振る。
「それでもこんな風に思えたのは蒼太のおかげだから」
「お前は元々、人と話すのが好きなんだよ」
「なんでそう思うの?」
「お前、気づいてないかもしれないけど、会話してる時の顔、すごく楽しそうだから」
私は思わず笑みを漏らした。その言葉が、少し照れくさくもあり、心地よかった。
蒼太と歩いていると、ふと道端に咲いているひまわりが目に入った。
「なぁ、ひまわりの花言葉って知ってるか?」
私は少し考えたあと、軽く首を振る。
「ひまわりの花言葉って、『あなただけを見つめる』なんだって」
「ロマンチックだね。なんだか、太陽に向かってずっと咲いているひまわりって、誰か一人を真剣に思う気持ちが込められてる気がする」
私はひまわりを見つめながら微笑んだ。
「でも、太陽がないときって、ひまわりってどうするんだろう。咲けなくなったり、しおれたりするのかな」
蒼太は少し黙った後、穏やかな表情で答えた。
「それでも、ひまわりは咲こうとするよ。たとえ太陽が出なくても」
私は静かにひまわりを見つめながら、その言葉の意味を噛み締めた。



