「会議は小一時間で終わるから、十一時までには戻れるだろう」
「分かりました。バイヤーの件は俺が話をつけて、できるだけ早めに戻れるようにします」

 うむ、と店長は頼もしく思いながら頷く。

「タナモト君は……有休中だからなあ。わざわざ呼ぶわけにもいかないし……」
「初めての新婚旅行と言っていましたからね。ああ、あと、ニシノには町内会議に行ってもらうことになってます。今回はタナモトの代わりに出席することを先方にも確認済みです」

 嫌な時に他の社員の行事も重なってしまったものだ。

 楽天的なタナベ副店長の他、店長や彼に続く店にとってなくてはならない社員、タナモトもニシノも同じ心境だ。

「……あのぉ、大丈夫ですかね?

 明け方に出勤して来たニシノは、眼鏡越しに弱気な目をそろりと持ち上げて、開口一番にそう縁起でもない心配事を尋ねてきた。タナモトからメールで「心配しています」という返事まで返ってきたという。