【短編】おかしな男は今日も絶好調~それに喧嘩を売ったクレーマーと、店長の悲劇~

「なんで僕に嘘を吐くんですか。ちゃんと話してくれなきゃ分からないですよ」
「責任者を呼べと言っとるんだ! アルバイトじゃなくて、他の奴だ!」

 テルヒコは、シャツの上から着た自分の紺色のエプロンを見下ろした。

 アルバイトやパートと違い、社員はスーツのズボンに、シャツとネクタイを着用している。そして極め付けは、名札にきちんと表示されている「社員」の二文字だ。

「僕、社員なのに……」

 思わずテルヒコが涙声になると、相手が慌てたように「店長だ」と取って付けたように、主張した。

「だから、店長は今いないんですってば」
「お前さん『当然知ってるよな』という前提で話すな。俺がそんなこと知るか」
「え~、だっていないんですもん。信頼されて、僕がここに残っているのです!」

 男はひどく呆れたような、開いた口も塞がらないという表情も浮かべたが、ややあって小さな声で「タケダだ」と名乗った。

 年上の中年クレーマー、タケダは本当の名前を切り出すなり話し出した。まるで愚痴を吐く相手がいなかったかのように、「競馬がだめだった」「昨日は突然の土砂降りで窓を閉めようとしたら濡れていて転んだ」など、話題は尽きなかった。

 それにテルヒコは「うんうん」と真面目な相槌を打ちながら、歩き回らなくてもよい楽しい業務だ、と思いそれをこなすために耳を傾け続けていた。