「僕はパン代が浮きましたからね!」

 えっへんとテルヒコは胸を張る。おじさんはカラカラと笑って「もうすっかり夏だねぇ」と返し、テルヒコは彼とほんの少しだけ立ち話をした。

 店内は広いため、歩く時間も自然と多くなる。

 テルヒコは店内を巡回がてら歩きながら、腰に下げた歩数計のヒヨコがそろそろ鶏に進化していないかなあ、と思い時々眺めた。

 それは昔流行していた小型ゲームの現代版だ。たびたびヒヨコには餌をあげなければいけない。音は消してあるが、歩数計が十歩進むごとに「ピヨピヨ」と可愛らしい声を上げるのを彼は想像した。アルバイト生のトダ君にもらってから、毎日歩くのがますます楽しくなっている。

 総菜コーナーには、お喋りが楽しいパートのおばさんたちがいた。

 最近入った若い子がオニギリを握っていたので、テルヒコは「じゃあ、お昼に買うね」と約束した。「ついでに僕とデートしない」と誘ったが、イトウチーフの鋭い視線に気圧されて「冗談だよ」と小さく言った。