ごちゃごちゃと散らばった物たちを少しずつ全てゴミ袋に詰め込んでいく。
 これは可燃、これは不燃、これは粗大ゴミ。
 滲む汗を手で拭いながら、私は黙々と家の中のものをゴミに変えていく作業を続ける。
 死のうと思っている。
 急に何を言い出すのだこいつはと思うかもしれないが、聞いて欲しい。
 私、遠野雫(とおの しずく)は今年の冬に死のうと思っている。
 今はそのための身辺整理をしているのだ。
 こういうのは早くからやっておかないと後で大変な思いをするから。
 なぜ死のうと思ったのか。
 この世界が壊れているからだ。
 そして私もまた、壊れているから。
 だから死なねばならないと思った。
 いいじゃないか。
 どうせ私が死んでも悲しむ人間なんて大していやしない。
 壊れたものはこうしてゴミとして捨てられるように、壊れた人間もまた社会からゴミとして捨てられるのだ。
 思い出など関係なく、ただあっさりと。
 私が消えてもきっと気づかない人はずっと気づかない。
 だってもう奥に追いやられてしまっているのだから。
 その人の心の中に、もう私はいないのだから。
 とは言っても、今はまだ三月。
 十二月まではまだ程遠い。
 それまでに大学の荷物や寝るところを捨ててしまうのは生活がままならない。
 大学の荷物や必要最低限の家具は残して、あとは捨てるとしよう。
 クローゼットの中をかき分けていると、高校の時にみんなで撮った写真や誕生日に彼氏から貰ったネックレス、家族写真などが出てきた。
 やけに懐かしくなり少しの感傷に耽りつつ私はあることを思い立った。
 お世話になった人たちには、最期の挨拶をして回ることも、大切なんじゃなかろうか。
 私は行動に移すのが早い。
 早速私は家族、恋人、友人、恩師に連絡をした。
 皆返信が早く、すぐに会う目処がたった。
 さて、なんて言おうか。
 「突然ですが死にます」なんてそんなどストレートに言えるたまではない。
 まあきっとそういう難しいことはその場のノリでその時の私がどうにかしてくれるだろう。
 捨てかけていた洋服達に手を伸ばし、シワを伸ばしてからもう一度ハンガーにかける。
 これはまだ、とっておこう。
 捨てるのは後からでもできる。
 今はまだ、この子達を捨てる時ではないだろう。
 大丈夫。
 服ごときで私の心は揺らがない。
 きっとちゃんと、今年の冬に私は死ぬ。
 私はまたゴミ袋を広げ、床に散らばっている今からゴミになる物たちを捨てていく。
 消えていく。思い出が。
 けれど、もうそんなことはどうだっていい。
 思い出ごと、私のことも消してほしい。
 そう思いながら、私はゴミを捨てるスピードを少し早めた。