蒼になるまで待とう


今から何か月か前の、紡のお葬式。
遺影には、笑顔の紡がこちらに手を振っているようだった。
私は紡に手を合わせた後、式場の大きな窓の外にある水たまりを、理由もなく見つめていた。
中学校から共に過ごしてきた、ライバルでもあり大親友でもあった紡が死んだ。
その事実をどう受け止めればよいのかわからず、ただ一人になるしかなかった。
水面には青空が映っていて、それが揺れては、私の目の表面の水もこぼれ落ちていた。
「園田」
遠くにあったはずのクラスメイト達の声が一つ、こちらへ飛んできた。
その声は上地くんで、あまり話したことのなかった、紫色の髪の毛の男の子だった。
けれど、窓に映る上地くんの髪の色は、黒色だった。
「山端、自殺なんだな」
私は返事をすることができなかった。
だから、どうせ上地くんもつまらなくなって早くその場からいなくなるだろうと思っていた。
「同い年の人の葬式に出るの、久しぶりだった」
しかし上地くんは、顔色を変えず、淡々と話していた。
「なんで、急にいなくなったんだろうな」
私のそばに立っている上地くんの手には、何かが握られていた。
「園田がいたのに、なんでそんなことしたのかな」
私はそのとき、今までより遥かに速い速度で、目に水が溜まっていくのを感じた。
「悔しいよな」
その言葉が、私のずっと我慢していた感情の鍵を開けた。
私は大きな声をあげて泣いた。
紡がいなくなって初めて、ぼろぼろになるまで泣いた。
そう。上地くん、そうなんだよ。
私、悔しい。
なんでいなくなっちゃったんだろう。
なんで私に相談してくれなかったんだろう。
なんで私が気づけなかったんだろう。
なんでそんなことしようと思ったんだろう。
なんで、…。
その「なんで」に、もう紡は答えてくれない。
いくら願っても、戻ってくることはない。
どんなに大きな声で空に叫んでも、紡には届かない。
できないことしかない。
それでも、そんな私のそばに、上地くんはいてくれた。
ありがとうも何も言えなかったけれど、もう今なら言える。
上地くんも、もし誰かを失ったことがあるならば。
私たちは似た者同士だ。
お葬式の帰り道、紡のお母さんから言われた
「今はまだ伝えられないけど、紡の言葉は残っているから、この子のことを忘れないでもう少し待っていてほしいな」
という言葉を考えていた。
私はまだ、それを待っている。
いつか紡の声が聞けるかもしれない。お母さんが言ったのだから、きっと。
そのときは、上地くんにも、それを聞いてほしいと思った。