着いた場所は、自動販売機だった。
「なんか飲むか。園田は何飲みたい?奢る」
上地くんがピッとボタンを押し、私の方へ視線を向けた。
「いや、そんな大丈夫だって…」
私は上地くんに何もしていないし、むしろ助けてもらった側なのだから、奢られるのは申し訳ない。
しかし、上地くんはサイダーを手に持って、
「奢るって言ってんだから、そこは素直に奢られていいんだよ」
と、感情が読み取れない顔つきで言った。
そうです、ごもっともです…。
「じ、じゃあいちごオレで!」
やっぱり申し訳ない、と思いつつも、私は上地くんにそう言った。
そして、さびれたベンチに腰掛けた上地くんは、園田も座ってと言ってくれた。
「よりによって一番高いやつ選びやがって」
「え!?それは、ごめんなさい!交換する!?」
私は上地くんを怒らせたかと思い、あたふたとしていた。
上地くん、怒ったらなんか怖そうなんだよなぁ…。耳にいっぱいピアスついてるし…。
ただ、実際の上地くんは全然そんなことなくて。
ふはっ、と、優しく笑った。
夏休みが明けて少し経ったけれど、まだ暑さは変わらない。
空はパステルカラーで、入道雲がもくもくと一人で成長している。
「園田、ようやく戻った」
「え?戻った?」
うん、と、上地くんはサイダーを一口飲んで続けた。
山端(やまはた)が死んでから、お前おかしかったよ」
「紡が死んでから…?」
蝉の鳴き声は学校が始まると止み、代わりに太陽が自分の力を惜しみなく振り絞るようになった。
「うん。…笑ってない感じ」
やっぱり、笑顔。
私は、紡がいなくなってから、なかなか笑えないようになった。
それは当然のことで、今笑顔なのも不自然なのはわかっている。
けれど、そんな冷静な考えを忘れ、ただ口角を上げる動作をするように「笑顔」を貼り付ける作業を、私は一日何回しているのだろう。
「…あ!今日塾!」
私は突然、今日塾があることを思い出した。
「ごめん、私帰らなきゃ!」
「いや、おい!結局俺何も教えられてねーって!」
「本当ごめん!飲み物もありがとう、今度お返しするね!」
私はバックを手に持ち、上地くんとお別れしようと思った。しかし上地くんは、
「今日のことは、誰にも言わないでおく。だから、明日またここで、今度こそお前が話せ」
と言ってくれた。
「ありがとう、色々ごめんね…!また明日!」
私は急いで家に帰った。
最後、上地くんが何か言いかけていた気がするけれど、また話すときに聞けばいいと思った。
明日を楽しみに帰宅するのは、紡が亡くなってから、久しぶりだった。