山端はあの日言った通り、本当にいなくなってしまった。仮なんかじゃなかった。
けれど、手紙に書かれていた五文字(・・・・・・・・・・・・)を読んで、山端は最期まで園田を、ライバルとして、親友として想っていたことが確信した。
葬式のとき、虚無になって壁にもたれている園田を見て、やはり蒼に似ていると思った。
そして無性に、大丈夫、俺がついててやるからと、抱きしめてやりたくなった。
けれど、それはできなかった。
それでも俺はなんだか縁があり、赤信号なのに道を渡っていた園田を二回も助けている。
そのときも、必ず俺は、「園田」ではなく、「(あおい)」と叫んでしまう。
しかも園田に、青になるまで待ってやると言ったのは。
園田が蒼になるまで待ち続ける、という意味も、多く含まれていた。
あのときは、園田が蒼なんじゃないかと思えてきて、蒼なら早く蒼になってほしいと、そんな考えもあった。
俺は、過去の大切な人を引きずり続ける、どうしようもない人間だ。
なのに園田は、俺に頼ってくれるし、色々なことを話してくれる。「水」も見なくなったと報告してくれる。
蒼のことも、知ろうとしてくれるのだ。
毎日園田と話すたび、俺の頭の中の蒼が薄くなっていく。
もう私のことはいいんだよ。気にしないで、今を楽しんでおいで。
そう言われているような気が、毎日する。
蒼は一人で抱え込む癖がよくあった。それさえも、園田に似ていた。
そのたびに俺は、もちろん自分の意志で、蒼に寄り添っていた。
けれど今は、目の前にいる園田結楽という人に、寄り添っていたい。
俺のことを受け入れてくれた、大切な人に。
「ごめん、生徒会が長引いた!」
園田が駆け足で、校門で待っていた俺のもとへ向かってくる。
秋風も同時に、俺の紫の髪の毛を揺らしに走ってくる。
「お疲れ。帰るかー」
山端の手紙は、俺がコンビニで買い物をしていたとき、たまたま山端のお母さんに会って、結楽ちゃんに渡してほしいものがあるから時間があるときに家まで来てほしいと言われ、預かったものだ。
そのとき、山端のお母さんは、
「あなた、羽勇くんだよね。紡と仲良くしてくれて、ありがとう」
と優しく微笑み、
「生前、結楽ちゃんだけに、紡は手紙を書いたの。紡の代わりなんかじゃないけど、結楽ちゃんとも仲良くしてほしいな」
と言った。
お母さん、仲良くしていますよ。俺ら。
蒼という色は、青色よりも、深く暗みがかった印象があるというのを、蒼から聞いた。
青信号で進めと言われても、俺らはまだ、明るい青色で進むことは難しい。
だから、せめて蒼色になれば進めるくらいまで、成長したい。
そしていつか、青色で進めるようになったとき、君に感謝と、この想いと伝えたい。
だから、園田。
(あお)になるまで待とう。
蒼と、山端と、俺と一緒に。
「園田」
「何?」
「俺のあの彼女の名前、蒼って言うんだけどさ」