紡が隣で話しかけてくるように読むと、あたたかい空気に包まれた気がして、涙がぼろぼろ出てきた。
いつも、紡は私を超えてくる。
確かに、紡の死因を何としても調べようとした。
勉強も生徒会活動も、いつものやる気をなくした。
テストの点数や順位で負けたときの悔しさより、紡と一緒に勉強したときの楽しさのほうが大きかった。
「なんでそんなに、私のことわかるんだよ…」
紡は、私よりも私のことをわかっている。
この手紙だって、きっとすらすら書いてしまったのだろう。
それがどんなに速くても、何か言ってくれれば、止められたのに。
…紡に「死」なんて、選ばせなかったのに。
けれど、自分で選んだことだと、自分を責めないでほしいと、紡はこの手紙の中で懸命に叫んでいる。
大親友と言われたライバルの私がそれを受け入れなくてどうする。
「私、四百八十点まで下がったよ」
ずっと四百九十点代で争っていたけれど、まんまと越された。罰が当たる。
私もうかうかしてられないな。
いつまでも悲しんでいたら駄目だ。もう紡は前を向いているのだから。
あの点数を越されたときの悔しさが蘇ってきた。
紙の隅には、これから高校で行うテスト全ての、紡が受けるとしたら取るであろう点数が表になって示されていた。
競う気満々だな。私も絶対越す。ずっと一位でいてやる。
「随分強気だな、山端。…って」
表を見た上地くんが、そうつぶやく。
けれど。
「私だって、負けてないから。絶対越してやる。強気でやるから。満点取ってやる」
涙を拭きながら、私はそう手紙に言った。
ふ、と上地くんが笑う。
「…かわい」
「可愛くないよ!本気だよ!ね、紡!」
手紙の中の紡にそう言っていると、やっぱ優等生さんはすげーわー、と、上地くんが伸びをした。
手紙をよく見ると、一か所、丸く滲んでいるところがあった。
もしかして、これ、紡の涙?
もっとよく見れば、所々字も不自然に震えていて、もしかしたら泣きながら書いていたのかなと思った。
泣くくらいなら、最後に連絡してくれればよかったのに。
…けれど、全て紡が選んだことなのだ。
私たちに、紡を否定する権利はない。
それが紡の選んだ道。受け入れて、ゆっくりろ過していくしかない。
たまに思い出して泣いてしまうこともあるけれど。
紡だったら、それは一人で抱え込むより全然いいことだと言うだろう。
私への手紙を泣いて書いた人だ。
君がその青空の先にいるなら。私のそばで見守っているなら。
どうか、私が泣いてしまっても、優しく受け止めてほしい。
私も、君を受け止めるから。
もう、紡の「死」を、否定なんかしないから。