「それでは、冬休みに風邪をひいたりしないように過ごしてください」

 先生がホームルームの時間の最後に言って、二学期の授業も今日でおしまい。
 みんな、そそくさと教科書をスクバに入れて教室を飛び出していく。

「じゃぁあとで集合ね!」

 そんな声もあちこちから聞こえてくる。
 でも私はいつもどおり。ゆっくりと荷物を片付けて、逆に教室からみんながいなくなってしまうのを待っていた。それは隣の席の悠太君も同じ。
 みんな教室から出ていったあと、いつものように開いていた窓を閉めてカギをかけていくのは、いつの間にか私たちの役目になっていたっけ。

「準備できたよ」
「それじゃ帰るか」

 あの体育祭と文化祭以降、私たちが二人で歩いていても何も言われない。
 聞けば、「もう二人でセットでしょ!」と当たり前に受け入れられているみたいで、「お付き合いはしていない」というのも、「はいはい、分かった分かった」って流されてしまうことも多くなった。
 今日も二人並んで歩道を歩いて帰る。

「今日は、琴葉の家にお世話になるね」

 あの夏休みのイベントから、私たちだけではなく、お父さんやお母さんたちもすごく仲良くなって、今日のクリスマスイブは両家一緒にクリスマス会をするんだって。
 いつも学校から帰って私がおやつを用意するお台所はお母さんたちに占領されて、リビングもお父さんたちから覗かないようにと言われていたから、私たちが学校から帰ったことをドア越しに伝えて、準備ができてお呼びがかかるまでは悠太君のお家で待たせてもらうことになっていたんだ。

「琴葉の家族って毎年こんな感じなのか?」

 悠太君は半分あきれ顔。これまでこんなハイテンションで準備しているところなんて見たことなかったって。

「ううん。そんなことないよ」

 私の方もそんなにワクワクするようなイベントではなくて。一人で学校から帰ってきて、一応通知表を見せて、普段とあまり変わらない食事を済ませたあとは自分の部屋に閉じこもってしまうことも多かったな……。

 それが突然こうなった。
 心当りはひとつしかない。

 お爺ちゃんもそうだったけれど、悠太君と私が出会って、お互いの様子が一年も経たずに劇的に変わったことしかないんだよね。

 程なく悠太君のスマホが鳴って、私たちは二人で階段を一階分降りて、私のお家に入ると……。
 よくここまで準備したねぇと悠太君と思わず顔を見合わせて吹き出してしまったよ。

 お母さんたちがそれぞれの得意料理を持ち込み合うだろうなとは思っていたけれど、リビングの中はホームセンターとか百均のお店で買ってきたんだろうなと思う飾りがいっぱい置いてあったり天井から吊らされていたり。
 これでケガでもしたら大変だよと思ってしまったくらい。

「ご近所でお互いにお世話になってるんだから、これくらいはしてもいいだろうってことでな」

 テーブルの上のケーキも、いつも大体4号くらいなのに、間違いなく6か7号のサイズだ。

「琴葉も悠太君も、主役は真ん中に座る」
「主役って……、ねぇ?」
「琴葉ちゃん、本当に悠太の事では感謝しているのよ。今日はそのお礼にってことで」
「えっ? そうなんですか……?」

 全くの正反対だったよ。出会ったあの日、私から話しかけたんじゃない。悠太君が声をかけてくれたんだよ。

「悠太が自分から女の子に声をかけて、その日から一緒に帰ってくるなんて、杉原家は大騒ぎ。何が起きたんだって。この悠太と初対面で話せる子がいたのかってな。琴葉ちゃんには本当に助けられた。そのお礼だから」

 聞けばこのパーティーを持ちかけてくれたのは悠太君のご両親からで、それならば私もお世話になっているのだから、場所はわが家でとなったんだって。

「春先に引っ越してきたときに、まさかこんな年末を迎えるとは思っていなかったわ」

 転勤族でもある悠太君のお父さんの影響があって、荷物は最低限になっていたそう。

 それが最近は変わってきたって。
 悠太君が私との学校での様子をお家で話していると、次の転勤を言われたときにどうしたものかと悩んでもいるんだって。

「でも、もう悠太君も高校生だし、その先の大学生なら一人暮らしもありよね。まだ次を言われているわけじゃないんだから、その時はみんなで考えましょう」
「そうよね。この春から悠太がスマホを自分の部屋に必ず持っていくようになったの。何かと思ったら、琴葉ちゃんからの『おやすみなさい』が来るまで寝ないで待ってるのよ」
「母さん、なに琴葉にバラしてんの!?」

 悠太君が顔を真っ赤にしている。
 まさかそんなことを私の前で言われると思ってなかったんだよね。逆の立場なら私も顔がリンゴになっちゃうと思う。

「私が勝手に始めたことなんだけど、待っていてくれる人がいたなら、続けていてもいい?」
「そ、それは琴葉が決めていいと思う……」
「じゃ、これからも続けるね」

 よかった。嫌がられていなかったんだ。私たちの会話は、私の「おやすみなさい」と、悠太君の「また明日」で締められるから、毎日嫌がられていないか不安に思い始めていたんだよ。

 笑いながらお腹いっぱいになって、大人たちがお酒を飲み始めたので、私が簡単にテーブルの上を片づけている間に悠太君に寒くない格好をするように伝えて、私もコートを上に羽織って、隣の児童公園に悠太君を誘って外に出ることにしたんだ。