「お疲れ様でしたー」
学校の制服に着替えた俺は灯さんに声を掛けた。
「お疲れ様、今日は本当にありがとうね。これ少しだけど持って帰って」
手渡されたのはお店で出している、しっとりクッキーとケーキだった。お客さんに出していた時に、美味しそうと思っていたスイーツたちだった。
「え、いいの? 実たち喜ぶや」
「喜んでくれるならこちらとしても嬉しい限りだよ。気を付けて帰りなね」
「うん、ありがとう。また次のシフトの時に」
俺はドアを開けて店から出た。駅に向かう方向には闇夜に混じって止まっている一台の黒い車が行く道を塞いでいた。
(多分、あの車は......)
俺は車の横についてコンコンと窓をそっと叩く。すると、窓が下に降りて涼臣が顔を出して微笑んでいる。
「お疲れ様」
「うん、お待たせ。これから帰るけど、一緒に帰る?」
いつもみたいに「駅まで一緒に帰る?」と聞いたつもりだったが、思いがけない返答が返ってくる。
「一緒に帰るけど、遅いし送る。ほら乗って」
ドアが開き乗るように催促しているようだった。
「いや、待っててもらってただけでも嬉しいのに送ってもらうのは......。それに」
(もっと遅くなると、おばあさんに怒られる)
そう言おうとしたら、中から手を引っ張られ連れ込まれる。外から見ていた人がいたら誘拐の現場を見たも同然。
「俺のことはいいから帰ろう。佐々木、車出して」
「かしこまりました、坊ちゃん」
車が動き出し、乗らざるを得なくなってしまった。大人しく今回だけお言葉に甘えてと決めて、素直に乗せてもらう。
「今日、連絡なかったからクラスまで行ったんだ。そしたら帰ったって聞いてびっくりしたよ」
そういえばバイト頼まれたのが急だったから、涼臣に連絡していなかったと今更気づいた。
「ごめん、急ぎだったから連絡してなかった」
涼臣に申し訳ないと手を合わせて謝った。涼臣は優しく「いいよ」と返してくれる。
いつも優しく接してくれたり、駅まで送り届けてくれたり、こうやって連絡忘れても笑って許してくれたり。こんな一方的な優しさをもらっておいて、返せていない自分が恥ずかしい。
(好きなのは本当。バレンタインの日に告白してくれて嬉しかったのも事実。何か返すことができたなら......。あ、誕生日もうすぐだった気が)
「そういえばさ、もうすぐ誕生日だったよね? えっと、6月14日だったよね」
話を振るのが下手か、俺は。と自分でツッコんでいるといると、何も気にしていない涼臣は「そうだね、もうそんな時期か」とつまらなそうな顔をして答えた。
誕生日にいい思い出がないのだろうか?
「誕生日楽しみじゃないの?」
「楽しみではないね、家でパーティーを開いて会社の偉い人たちに挨拶して。俺の誕生日って何だろうって毎回思うんだよね」
俺の家では誕生日を迎えると、家族のみんなからお祝いしてもらって小さいケーキを食べるのが恒例で、つまらないとは感じたことがなかった。
(それなら俺が楽しいって思える時間をあげればいいんだ! それに仲のいい人たちも誘ってワイワイ出来たらいいじゃん)
涼臣にとって楽しいと思える日にしてあげたい。そのためなら、準備は俺が引き受ける。
「涼臣、俺が誕生日をいい日に日にしてあげるから! 一緒に過ごそう」
涼臣は目を見開いて驚いていた。まるで祝ってもらえるなんて思ってもいなかったような顔でフリーズしていた。
「涼臣?」
涼臣はどこかへ飛ばしていた意識を戻し、戻ってきた。
「あぁ、ごめん。恋人から祝ってもらえるとは思ってなくてびっくりした。誕生日が楽しみに思えたのは初めてだな」
涼臣は子供のような幼さを見せた笑顔で喜んだ。俺もそれを見て嬉しく思う。
(もっと早く会っていたら、恋人になっていたら、寂しい誕生日なんて過ごさせなかったのにな。なんて、今更言っても仕方ない! 誕生日を楽しいものにしてもらうために、準備頑張ろうっと)
俺が意気込んでいると見慣れたアパートの前に着いた。
住宅街に高級車って見ていた人がいたら、噂になってたりして、あははは。
「気を付けて」
「目の前だし大丈夫だって、気にしすぎ」
「明良は可愛いから、攫われると思う」
「なっ!」っと情けない声が車中に響く。涼臣の顔を見ると、揶揄っている訳ではなく真面目に言っているらしい。
「......この、人たらし」
「なんか言った?」
小声で言っていた事がバレるわけにはいかず、「なーんにも、送ってくれてありがとう。おやすみ」と言って車を降りた。
左右確認して道路を渡り、階段を上る。
振り返ると車はまだ止まっており、窓から涼臣が手を振っている。
俺もすかさず振り返し、家の中に入った。
急いでベランダの窓を開けると、涼臣が乗った車が走り去っていくのが見える。
今さっき別れたばかりなのに、すぐに会いたい気持ちは恋人同士だと普通のことなのだろうか?
うーんと悩んでいると、母さんが奥の部屋から出てきて「おかえり」と声を掛けてきた。
「ただいま、灯さんからケーキとかもらった」
「あら、そうなの。お礼言わないとね。明良先に選んだら? どうせあの子たち明日にならないと食べれないし」
母さんは寝ている二人を指さして、微笑みながら先に選ばしてくれた。兄弟ができたら母からの贔屓がすごい家庭は見たことあるが、俺の家ではみな平等。(時と場合によるが)
たまにこうして先に選ばせてくれたりするから、「あぁ、この家族の下に生まれてよかった」と思える。
涼臣は家族仲がいい方と言ってたけど、苦手だと言ったおばあさんとわかりあえる日が来たらいいなと思った。
「じゃあ、このタルトにしようかな」
母さんは食器棚から白いお皿を取りだして、タルトを分けてくれた。母さんも自分の食べるケーキを出して、2人でこっそりケーキを食べた。
美味しかったケーキはなくなり、白い皿とフォークだけが残った。俺はそれらを洗ってから、風呂に入って眠りに落ちた。
学校の制服に着替えた俺は灯さんに声を掛けた。
「お疲れ様、今日は本当にありがとうね。これ少しだけど持って帰って」
手渡されたのはお店で出している、しっとりクッキーとケーキだった。お客さんに出していた時に、美味しそうと思っていたスイーツたちだった。
「え、いいの? 実たち喜ぶや」
「喜んでくれるならこちらとしても嬉しい限りだよ。気を付けて帰りなね」
「うん、ありがとう。また次のシフトの時に」
俺はドアを開けて店から出た。駅に向かう方向には闇夜に混じって止まっている一台の黒い車が行く道を塞いでいた。
(多分、あの車は......)
俺は車の横についてコンコンと窓をそっと叩く。すると、窓が下に降りて涼臣が顔を出して微笑んでいる。
「お疲れ様」
「うん、お待たせ。これから帰るけど、一緒に帰る?」
いつもみたいに「駅まで一緒に帰る?」と聞いたつもりだったが、思いがけない返答が返ってくる。
「一緒に帰るけど、遅いし送る。ほら乗って」
ドアが開き乗るように催促しているようだった。
「いや、待っててもらってただけでも嬉しいのに送ってもらうのは......。それに」
(もっと遅くなると、おばあさんに怒られる)
そう言おうとしたら、中から手を引っ張られ連れ込まれる。外から見ていた人がいたら誘拐の現場を見たも同然。
「俺のことはいいから帰ろう。佐々木、車出して」
「かしこまりました、坊ちゃん」
車が動き出し、乗らざるを得なくなってしまった。大人しく今回だけお言葉に甘えてと決めて、素直に乗せてもらう。
「今日、連絡なかったからクラスまで行ったんだ。そしたら帰ったって聞いてびっくりしたよ」
そういえばバイト頼まれたのが急だったから、涼臣に連絡していなかったと今更気づいた。
「ごめん、急ぎだったから連絡してなかった」
涼臣に申し訳ないと手を合わせて謝った。涼臣は優しく「いいよ」と返してくれる。
いつも優しく接してくれたり、駅まで送り届けてくれたり、こうやって連絡忘れても笑って許してくれたり。こんな一方的な優しさをもらっておいて、返せていない自分が恥ずかしい。
(好きなのは本当。バレンタインの日に告白してくれて嬉しかったのも事実。何か返すことができたなら......。あ、誕生日もうすぐだった気が)
「そういえばさ、もうすぐ誕生日だったよね? えっと、6月14日だったよね」
話を振るのが下手か、俺は。と自分でツッコんでいるといると、何も気にしていない涼臣は「そうだね、もうそんな時期か」とつまらなそうな顔をして答えた。
誕生日にいい思い出がないのだろうか?
「誕生日楽しみじゃないの?」
「楽しみではないね、家でパーティーを開いて会社の偉い人たちに挨拶して。俺の誕生日って何だろうって毎回思うんだよね」
俺の家では誕生日を迎えると、家族のみんなからお祝いしてもらって小さいケーキを食べるのが恒例で、つまらないとは感じたことがなかった。
(それなら俺が楽しいって思える時間をあげればいいんだ! それに仲のいい人たちも誘ってワイワイ出来たらいいじゃん)
涼臣にとって楽しいと思える日にしてあげたい。そのためなら、準備は俺が引き受ける。
「涼臣、俺が誕生日をいい日に日にしてあげるから! 一緒に過ごそう」
涼臣は目を見開いて驚いていた。まるで祝ってもらえるなんて思ってもいなかったような顔でフリーズしていた。
「涼臣?」
涼臣はどこかへ飛ばしていた意識を戻し、戻ってきた。
「あぁ、ごめん。恋人から祝ってもらえるとは思ってなくてびっくりした。誕生日が楽しみに思えたのは初めてだな」
涼臣は子供のような幼さを見せた笑顔で喜んだ。俺もそれを見て嬉しく思う。
(もっと早く会っていたら、恋人になっていたら、寂しい誕生日なんて過ごさせなかったのにな。なんて、今更言っても仕方ない! 誕生日を楽しいものにしてもらうために、準備頑張ろうっと)
俺が意気込んでいると見慣れたアパートの前に着いた。
住宅街に高級車って見ていた人がいたら、噂になってたりして、あははは。
「気を付けて」
「目の前だし大丈夫だって、気にしすぎ」
「明良は可愛いから、攫われると思う」
「なっ!」っと情けない声が車中に響く。涼臣の顔を見ると、揶揄っている訳ではなく真面目に言っているらしい。
「......この、人たらし」
「なんか言った?」
小声で言っていた事がバレるわけにはいかず、「なーんにも、送ってくれてありがとう。おやすみ」と言って車を降りた。
左右確認して道路を渡り、階段を上る。
振り返ると車はまだ止まっており、窓から涼臣が手を振っている。
俺もすかさず振り返し、家の中に入った。
急いでベランダの窓を開けると、涼臣が乗った車が走り去っていくのが見える。
今さっき別れたばかりなのに、すぐに会いたい気持ちは恋人同士だと普通のことなのだろうか?
うーんと悩んでいると、母さんが奥の部屋から出てきて「おかえり」と声を掛けてきた。
「ただいま、灯さんからケーキとかもらった」
「あら、そうなの。お礼言わないとね。明良先に選んだら? どうせあの子たち明日にならないと食べれないし」
母さんは寝ている二人を指さして、微笑みながら先に選ばしてくれた。兄弟ができたら母からの贔屓がすごい家庭は見たことあるが、俺の家ではみな平等。(時と場合によるが)
たまにこうして先に選ばせてくれたりするから、「あぁ、この家族の下に生まれてよかった」と思える。
涼臣は家族仲がいい方と言ってたけど、苦手だと言ったおばあさんとわかりあえる日が来たらいいなと思った。
「じゃあ、このタルトにしようかな」
母さんは食器棚から白いお皿を取りだして、タルトを分けてくれた。母さんも自分の食べるケーキを出して、2人でこっそりケーキを食べた。
美味しかったケーキはなくなり、白い皿とフォークだけが残った。俺はそれらを洗ってから、風呂に入って眠りに落ちた。

