____キーンコーンカーンコーン
 授業を真剣に受けていれば、あっという間に放課後になっていた。
 俺は教科書やノートをリュックに詰めて、佐柳に言われた通り中庭に向かった。
「確かここだったよな」
 しっかりと整えられている花壇で囲まれているオシャレな中庭。そこで待っていたのは、俺の想い人である涼臣だった。
 待っている姿は、絵本に出てくる王子様そのもので、絵になっていて思わず見惚れてしまう。
 「あ、穂積」
 こちらに気付いた涼臣は俺と目を合わせて名前を呼ぶ。
(俺の名前、知っててくれてたんだ)
 名前を呼ばれただけなのに、今にも踊りだしそうなくらい歓喜している。
 俺は通路を通って涼臣のいる中庭の中心、噴水風花壇の方へ歩み寄った。
 涼臣の瞳は俺から離れずまっすぐ向けられている。俺も応えるように涼臣の瞳を見る。
(綺麗な青い瞳。海みたいだ......)
 そんなことを考えながら呆けていると、涼臣に声を掛けられ意識を現実に戻ってきた。
「えっと、甘宮くんだよね。話って何かな?」
 昔、話したことあるけど覚えていないかもしれないから馴れ馴れしく話さず、俺は初対面のように振舞った。
「やっぱり覚えてないか......」
 ボソッと何かを呟いた涼臣だったが、何もなかったかのように話し出した。
「これ入れたのって穂積だよな」
 涼臣が持っていたのは、俺が机に入れた青い包装紙。どうしてそれが俺だとわかったのか不思議に思うと同時に、冷や汗が止まらなかった。
(見つけてほしいと思ってたら本当に見つかってしまった。どうしよう)
 冗談と言ってごまかした方がいいのか、それとも正直に話して気持ちを伝えるか。
 頭の中でグルグルと思考を巡らしているうちに、涼臣が思わぬことを口に出した。
「穂積、俺と付き合って」
「はい! ......え?」
(今、何と言っただろうか。付き合って?)
 付き合っての捉え方間違っただけかもしれない。
 俺は涼臣が好きだから恋人になってほしいの付き合ってだと思いたいが、涼臣からしたらどこか行くのに付き合ってほしいのだろう。
「あの、俺の聞き間違いでなければ付き合ってと聞こえたのですが、どこに付き合えば......」
「そうじゃなくて、これの返事。俺も好きだから付き合ってってこと」
 一緒に入れていたはずのメッセージカード見せられる。どうやら俺と同じ意味の付き合ってらしい。でもどうして。
「前から言おうと思ってたんだけどタイミングがわからなくて。それで今日、机に入ってたこのお菓子を見つけて、告白するなら今だって、勢いで伝えてる。恥ずっ」
 頬を赤くしながら話す涼臣は嘘をついているようには思えなかった。それにいつも見ている無口な彼がたくさん話しているのがその証拠。
「それで、どう? 俺と付き合ってくれる?」
 落ち着きを戻した涼臣は告白の答えを聞いてくる。
(ずっと願ってたことじゃないか。これを逃せば二度目はないかもしれない。後悔したくない)
 俺は覚悟を決めて、告白の返事を返した。
「俺でよければよろしくお願いします」
 深々とお辞儀をしながら手を伸ばした。その手を涼臣は掴み、引っ張って抱きしめた。
「うん。よろしく穂積」
 抱きしめられると思っていなかった俺は頭の中がパニック状態になり、もしかして夢でも見ているのではないかと疑ってしまいそうになる。
(今は夢でもいいから覚めないで)
 抱きしめられながらそんなことを願っている俺は、欲まみれな人間だと思ってしまった。