海から帰ってきてから似れた水着から普段着に着替え、夜の楽しみであるバーベキューの準備を手伝う。
 実たちは眠さに限界が来たのか、着替えさせた後に眠ってしまって放置している。
 海に行っている間に、別荘に残っていた3人が殆ど野菜や肉を切ってくれていて大してすることはなさそう。
「これは串に刺せばいいの?」
「はい、いい感じに刺してこのトレーに置いていってください。あとで焼いて行くので」
 言われた通りに串に刺したり、涼臣に関しては佐々木さんに教わりながらバーベキューコンロに火を熾している。
 顔には煙に乗ってやってきた炭が少しついている。
「涼臣、ほっぺに炭ついてる」
 涼臣は軍手をしている手で擦るが余計に広がり、黒の面積が大きくなる。
「違うよ、こっち」
 持っていたタオルで顔を拭くと炭は取れて、いつものイケメンが戻る。やっぱりこうでなくっちゃな。
「そろそろ焼き始めましょうか」
 調理を全面的に見てくれている佐々木さんの合図で、バーベキューは始まった。
 昼寝していた実たちは母さんに連れられて眠い目を擦っていたが、目の前の楽しい光景に目が覚めテンションが海に入る時と同じくらいに戻った。

「ここから焼けているので取っていってくださいね」
 焼き上がった肉は全体的に茶色になっていていい焼き色をしている。それに、煙だけでもいい匂い。
 串を一本取り、「いただきます」と言って口に頬張る。一口目に来るお肉がジューシーでとろける。
「うっまぁ!」
「こんな肉初めて!」
「もっと食べたい」
「こらこら落ち着いて。......あらホント美味しいわぁ」
 穂積家の会話は何ともまぁ、柔らかい肉を食べる珍しさが伝わってくる会話でしょう。
 涼臣たちは普段から食べなれているのかこんなオーバーリアクションは取っていない。それよりか、笑顔で見守られている気がする。
「肉は逃げないから、ゆっくりよく噛んで食べな」
「そうですよ! これからもっと焼く予定ですから、満足するまで食べちゃいましょう!」
 どんどん肉や野菜が網の上に置かれ、ジュ―と香ばしいいい匂いを放ちながら焼かれていく。
「兄ちゃんこれ食べて」
 実が差し出してきたのはピーマンだった。一緒に串に刺していたのもあり、多少焦げているところもある。実は昔からピーマンの苦味が嫌みたいで、これを聞かないと最悪泣き始める。
(だけど今日は......)
「今日はこの一つ食べることができたら、後から出てきたピーマンは兄ちゃんが食べてやる。だけどな、栞を見習って苦手なタマネギを食べ......。涼臣、今、口に入れたの何?」
 珍しく栞が涼臣の膝の上に座って、持っていた串を近づけていたように見えた。俺が振り返ったら遠ざけたみたいだけど。
「なにも食べて、ないよ」
「本当にそうか?」
「大好きなタマネギがたくさんついてる串を栞ちゃんからもらってたんだー」
 馬鹿にしか引っかからない棒読みに嘘をついている事がバレバレだ。
「栞も、実と一緒だからな」
「うぇー、最悪!」
 口先を下に下げて心から嫌そうにするが、どちらかと言えば優しい条件だと思う。感謝してほしい。
 2人は、渋々苦手なや野菜を食べた。実は一口で食べるのに対して、栞はちょこちょこ食べている。双子でも性格あるんだなとこういう時にも思うことが多い。
「「食べたぁ」」
 2人の皿を見ると綺麗に残さず食べられていた。えらいな。
「もうお腹いっぱい」
 実たちは食べていたものを簡単に片づけて部屋に入ってテレビゲームをし始めた。今日は苦手な野菜も食べてくれたし、少しは多めに見てやる。
「まだ残ってるけど、食べる?」
 2人に気を取られ過ぎて自分があまり食べていないことが串で分かる。
 涼臣に「食べる」と伝えて一緒に出来上がるのを待った。

「ごちそうさまでした。久々にいっぱい食べたかも」
「美味しかったよね。俺、バーベキューしたの初めでかも」
 残っていた面々で片づけを始める。それぞれ持ち場を決められてか、母さんはキッチンで洗い物、莉子さんは紙皿や割りばしなどのごみの片づけ。佐々木さんは火の後始末で、俺らは他の重いものだったりを倉庫に置きに行く。
「やり方は覚えたから、次はいつでも行けるよ」
 次も俺を連れて行ってくれるんだと思うと、嬉しくなり元気に返事する。
 折り畳みのテーブルと椅子を倉庫の中に入れて、また戻って熱の冷めたバーベキューコンロを直す。
「明良、海での約束忘れてないよね」
「あぁ、時間作るて言ってた。忘れかけてたけど、思いだした」
 玄関の方までその話をしながら帰っているとみんなはもう既に中に入っていて、俺たち2人だけが取り残されていた。
 涼臣の顔が俺の顔に近づいてきた。キスされるのかなと思いきや、誰にも聞こえない声で耳打ってきた。
「風呂入ったら俺の部屋に来て」
「わ、わかった」
 涼臣は離れて先に玄関へ。俺は火照って赤くなっているであろう熱を追い出すのに、少しだけ時間を置いて中に入った。

コンコン。
「涼臣入っていい?」
 風呂から上がってすぐに涼臣のへやに直行した。すぐにとは言われてないけど、寂しがってたしと彼氏としての気遣いが出てしまった。
 ガチャっと音を立てて開いた扉の前には、髪がまだ濡れている涼臣の姿が。
「早かったね。まだ髪乾かせてなくて」
「俺、やろうか」
「え、いいの?」
 部屋に置いてあったドライヤーをコンセントに繋いでいて、すぐに動かせる状態だった。
 涼臣を座らせサラサラの黒髪に触れて乾かしていく。
 下に兄弟がいると、髪の毛を乾かすのもお手のもの。慣れた手つきでドライヤーを当てて乾かす。
「涼臣の髪はずっと触っていたいくらいサラサラだよね」
「そうかな、俺は何とも。明良に触ってもらえるなら、このサラサラ維持しないとね」
 冗談を言って笑っていると乾ききったようで、ほんのり温かくなった髪を撫でる。
「二人の時間はにするの?」
「星が見たくて。ここから見える星が海と同様に綺麗なんだ」
 ベランダを開けた涼臣に案内され、外に出ると、都会ではあまり見ることができない満面の星が広がっていた。
「すげー」
 海にも星が映って煌めいている。
 薄めのブランケットを羽織っている涼臣に後ろから抱き着かれ、その場でしゃがみこんだ。
 ずっと星を見つめていても飽きそうにない、そう思っていると流れ星が一つ、二つと流れていく。
「あ、流れ星! 願い事」
 俺は手を合わせて願い事を唱えた。涼臣も同じように願っているのか静かだった。
「なんて、お願いしたの?」
「言う? じゃあせーので言おう。せーの」
「「これからも一緒に居られますように!!!」」
 同じ願いが星に託された。俺たちは声がそろった瞬間、笑いが止まらなくなった。まさか同じ願い事をしているなんて。
(これが以心伝心というものなんだろうな。もしくは運命共同体)
 なんてメルヘンチックなことを考えていると、涼臣があくびをした。あまり見る機会に少しだけ嬉しくなる。それだけ、気を許してくれているという事だろう。
「もう寝ようか。俺はそろそろ部屋に戻るね」
「明良はこっちで一緒に寝るんだよ。時間ちょうだいって言ったでしょ?」
「え?!」
 寝るまでがセットだと思っておらず、どこにいるのかは誰にも伝えていなかった。
「や、でも俺、寝相悪いって言われた(ことは無いけど)。それにいびきだって......」
「大丈夫、俺は気にしないから気にしないで。ほら」
 返事を返す間もなく、引っ張られてベッドに放り込まれ、布団を被らされていた。それに上から涼臣の腕が重なってきて捕まって逃げることができない。
(諦めよう、寝るのは同じなんだから)
「おやすみ、明良」
「おやすみ、涼臣」

 俺は涼臣に抱かれながら眠った。その時、不思議な夢を見た。
 涼臣が住んでいる部屋で、俺が料理をしている。それに少し大人だ。
 これは夢なのか、それとも予知夢なのか分からないが幸せな夢だった。

 朝日がカーテンから差し込み、目に当たり目覚めた。
 体勢は寝る前と大して変わらず、違うとすれば目の前には眠ったままの涼臣がいた。
「綺麗な顔だな」
 顔を触っていると、キラッとキラキラしたものが指にあった。指輪だ。
「涼臣、これ!」
 身を少しだけねじって悶えだす涼臣。俺から離れるのかなと思っていても、離れる気配がなく、器用だなと思ってしまう。
「おはよう、涼臣。ねぇ、これどうしたの」
「......んん。まだ」
 寝ぼけていてほしい回答が返ってこない。
(早起き苦手なのかな)
 それにしてもしっかりしている人ほど、こういう苦手な所を見れた時は萌える。
「指輪どうしたんだよ、早く教えて」
「別に、色々あったけど付き合って半年だから......。まだ起きないで、もう少し明良といる」
 そう言って、涼臣は俺に回していた腕に力を入れて寄せてくる。
 一緒に暮らした時のイメージができる。こんな風に、朝の弱い涼臣を甘やかして起こすのも悪くなさそう。
 昨日、星に願ったことは案外簡単に叶えられるかもしれないと涼臣の中で幸せになって感じた。