消えない音の行方

いつも通りの帰り道。

暗く静かな夜、街の灯りがぼんやりと揺れている。

バスの揺れに身を任せながら、音羽は窓の外を眺める。

それは変わらない、いつもの風景。

でも、今日は少しだけ違う。

街の灯りも、バスの揺れも、耳に流れる音楽も、すべてが優しく感じる。

静かな夜の中で、何かがほんの少し温かく響いている。

楓真はもういない。

そのことを何度も確かめながら、音羽は思う。

でも、楓真が残した音は、ずっと音羽の中に残っている。

彼が教えてくれた音楽、歌、言葉。

それらは消えることなく、彼の存在とともに生き続けている。

だから、音羽はもう一度、前を向こうと思う。

楓真がくれた音を大切に抱えて、これからも生きていこう。

彼がいなくても、その音があれば、ひとりじゃない気がするから。

最後に、そっと口ずさむ。

あの二人で聴いた、あの曲を。

――そして、夜の奥へと消えていく音とともに、物語は幕を閉じる。