消えない音の行方

夜の風は、少し冷たかった。

音羽はぼんやりと空を見上げる。

淡くにじむ月の光が、どこか遠い世界のもののように思えた。

楓真がいなくなってから、世界は静かになった。

街も、学校も、あの頃のように輝いて見えない。

すれ違う人の声も、教室に響く笑い声も、まるで膜越しに聞いているみたいに遠くて、どこか色褪せていた。

だけど、ふとした瞬間に、楓真のことを思い出す。

バスの窓に映る街の灯、イヤホンから流れるメロディ。

何気なく口ずさむ曲。

それらが、彼との記憶をそっと繋ぎとめている気がした。

「消えないから。」

あの日、楓真が微笑んで言った言葉が胸をかすめる。

でも、どれだけ思い出しても、どれだけ探しても――

もうどこにも、彼はいない。

楓真がいなくなった理由を、音羽は知っている。

だけど、それを思い出すのが怖かった。

もしもあの記憶に触れてしまったら、もう二度と戻れなくなってしまう気がした。