彼女と過ごす時間の中で、彼は少しずつ変わっていった。

けれど、心の奥底にある問いには、まだ答えを出せずにいた。

──僕は僕を、認めて征けるのだろうか?

彼女の隣にいるとき、世界は確かに美しく見えた。

けれど、それは彼女がいるからであって、自分自身の力ではない気がした。

もし、彼女がいなくなってしまったら?

自分はまた、何もない人間に戻ってしまうのだろうか?

そう考えるたびに、怖くなった。

そんな彼を見つめながら、彼女はそっと言った。

「何も知らないままの心じゃ、生きていけないのかな?」

夜の静けさに溶けるような、優しい声だった。

「もしそうならば──」

「この切なさも、愛せるようになるまで、涙を流してもいいよ。」

彼の胸の奥で、何かがそっと揺らいだ。

彼女はずっと、彼のありのままを肯定してくれていた。

ならば、自分も──

この切なさすら、受け入れることができるのかもしれない。