凪音は、ずっと「生きている意味がわからない」と感じていた。

世界は静かに流れ、何もかもが遠いまま。

触れるものすべてが、指の隙間から零れ落ちていくようだった。

夜になると、胸の奥がひどく冷たくなる。

ひとりきりの静寂が、まるで心の形をしているみたいで。

──どうして僕は、こんなにも独りなんだろう?

そんな思いが、夜風とともに溶けていく。

公園のベンチに座り、ただ黙って足元の影を見つめていた。

そのとき。

「ねえ、ここ、よく来るの?」

ふいに聞こえた声に、凪音は顔を上げる。

そこに立っていたのは、琴羽という少女だった。

夜の帳に紛れそうなほど儚いのに、

不思議と彼女のまわりだけ、淡い光がにじんでいるように見えた。

彼女が微笑む。

その瞬間、世界がふわりと色を取り戻す。

夜空に蒼い花がそっと咲いたみたいに──。