彩花は、ふとした瞬間に気づく。

心の奥深くに埋め込まれた傷が、まだ癒えていないことに。

何度も繰り返し、閉じ込めてきたはずの痛みが、再び鋭く胸を突き刺す。

璃人と一緒にいるときだけは、その痛みが少しだけ和らぐ気がしていた。

彼の優しさに包まれ、ただその時だけは心が安らいでいく。

でも、その幸せが壊れるのではないかという恐怖が、彩花をいつも脅かしていた。

「こんなに幸せでいいのだろうか。」心の中で問いかける。

「もし、この灯が消えてしまったら、私はどうなるのだろう。」

璃人の存在があまりにも大きくなりすぎて、彼がいなくなることが恐ろしいほどに感じられる。

彼の優しさに触れるたび、彩花は自分が本当に愛される資格があるのか、疑問に思ってしまう。

璃人は、そんな彩花を静かに見つめ、優しく言った。

「君はそのままでいいんだよ。過去に傷を負ったことも、今の君も、全部受け入れてほしい。」

その言葉が、まるで彼女の心を照らすように響く。

しかし、彩花はどうしてもその手を伸ばせないでいた。

過去の痛みを手放すことができず、その傷がまだ深く彼女の中に残っていた。

璃人は静かに、無理に彩花を変えようとはしなかった。

ただ、彼女が少しでも自分を許せるように、寄り添い続けてくれる。

けれど、彩花の心はその優しさにどこか触れられず、何度も壁を作っては、また崩れそうになる自分と戦っていた。