夜の公園はいつも静かで、ただ風の音と木々のざわめきが響いていた。

しかし、その静けさの中で、ひとつだけ確かなものがあった。

それは、浅葱千夜の歌声だった。

毎晩、光が足を運ぶたびに、彼女は同じ場所で歌っていた。

その歌は、ただのメロディーではなく、心の奥深くに染み渡るような、どこか不思議な力を持っていた。

光は次第にその歌に引き寄せられるようになった。

毎晩、千夜が歌う場所へ足を運び、心の中で何かが変わっていくのを感じていた。

彼女の歌を聴いていると、かつて感じたことのない温かさが心を包み込み、

その優しい響きが、孤独と空虚な日々の隙間にそっと溶け込んでいくようだった。

ある晩、光は思わず口にした。

「君の歌を聴くと、何か温かくなるんだ。」

その言葉に、千夜は一瞬驚いたように目を見開き、すぐにその瞳に柔らかな笑みを浮かべた。

「ありがとう。」

彼女の微笑みは、まるで光そのもののように温かく、光はその笑顔を見て、心の中で何かが動くのを感じた。

でも、それだけではなかった。

光が気づくと、歌を聴くたびにその力が増していくような気がした。

最初はただ心地よく感じていた音が、今では彼の内面に深く響き、

過去の孤独や不安、空虚感が少しずつ消えていくような感覚を覚えるようになった。

その変化を感じる度に、光は自分の中で何かが崩れていくのを恐れていた。

しかし、同時にその恐れを超える何かが確かに存在していることを、彼は徐々に感じ取るようになった。

千夜もまた、光に対して何か特別な感情を抱き始めていた。

彼の存在は、彼女にとっても新しく、心を温めてくれるものだった。

しかし、彼女にはひとつ、決して語れない秘密があった。

その秘密が、どこかで二人の運命に影を落とすことになるのは、まだ誰も知らない。