夜の帳が深く降りて、空に無数の星が瞬いている。

秘密基地の場所は、静かな夜の中でひときわ美しい。

ふたりだけの世界。

ひなたと悠は、並んで座って、何も言わずにただ空を見上げていた。

その空は、どこか遠くて、でもどこか手の届く場所に感じられた。

ひなたがふと口を開く。

「ねえ、悠。ずっと気になってたんだけど、どうしてそんなに悲しそうな顔をしてたの?」

その言葉に、悠は少しだけ驚いた。

けれど、心の中でずっと彼女に話さなければならないと思っていたことを、今、やっと言うべき時が来たのだと感じた。

彼は深く息を吸い込み、そしてゆっくりと語り始めた。

「僕、昔…大切な人を失ったんだ。そのせいで、ずっと心が空っぽのままで、生きる意味を見失ってた。
 ずっと、自分が何者なのかもわからなかった。」

その言葉が、悠の心に溜まっていたすべてを一気に吐き出させるように感じた。

長い間閉ざしていた心の扉が、ひなたに対して少しずつ開かれていく。

「でも、君と出会ってから、少しずつ、前を向けるようになったんだ。
 君の歌声を聞いたとき、心の中で何かが動いた気がして…。でも、まだ怖いんだ。
 もし、また誰かを失ってしまったらと思うと、怖くて。」

彼の声は少し震えた。

過去の痛みが蘇り、胸が締め付けられるようだった。

しかし、ひなたは静かに、そして優しく言った。

「悠…その痛み、わかるよ。でも、私は悠が怖がる気持ちも、傷つく気持ちも、ちゃんと受け入れるよ。
 だから、無理に隠さなくてもいいんだよ。」

ひなたの言葉は、悠の心の中で温かく広がっていった。

彼女の目を見つめると、その瞳に揺れる優しさが映っている。

まるで、自分を包み込んでくれるような、そんな温もりを感じた。

「ひなた…」

彼は、その温かさを感じながら、心の中で何かが解けるのを感じた。

過去の自分、傷ついた自分、それらをすべて受け入れ、もう一度歩き出すための勇気を、ひなたが与えてくれているように感じた。

そして、突然、ひなたが歌い始めた。

その歌声は、まるで空の隅から届くように、悠の心に深く響いた。

歌詞の一言一言が、彼の胸に染み込み、涙が自然と溢れ出した。

「どうしても、誰かの涙を止めたくて…」

その言葉が、悠の心を震わせた。

彼は手で顔を覆い、涙を流しながら、ただその歌声に身を委ねた。

過去の傷が少しずつ癒され、心の奥底から力が湧き上がるのを感じた。

彼は初めて、心からの笑顔をひなたに向けることができた。

「ありがとう、ひなた。」

その一言が、悠の心の中で何度も繰り返された。

過去と向き合い、今を生きる勇気を与えてくれたひなたに、心からの感謝を伝えたかった。

そして、彼の目の前に広がる星空が、今までよりも輝いて見えた。