日々の学校生活の中で、空羽は次第に朔夜との距離を縮めていった。

最初はあくまで偶然の出会いだったが、次第に放課後、一緒に帰ることが増えたり、図書館で顔を合わせることが何度もあった。

朔夜はいつも優しく、そして静かな空気をまとっていて、空羽の心に深い安心感を与えてくれる。

その温もりに触れるたび、空羽の心の中にあった不安は少しずつ消えていくように感じた。

ただ、空羽の中で何かが変わり始めていた。

朔夜といると、今まで感じたことのない温かい感情が芽生えてきた。

それは一緒にいるときの心地よさや、朔夜が微笑むたびに感じる心の動き。

だが、同時にその気持ちに対する恐れもあった。

どこかで「この気持ちが壊れてしまったらどうしよう」と心のどこかで不安を抱えていた。

彼に心を開き始めた自分が、怖くて仕方がなかった。

ある日の放課後、朔夜が空羽に提案した。

「今度、一緒に映画を見に行こうよ。」

その言葉を聞いた瞬間、空羽の胸が一瞬締め付けられるような感覚に襲われた。

もちろん、映画を一緒に見ること自体は嬉しかったが、それ以上に不安が押し寄せてきた。

「もし、これが壊れてしまったら?」
「もし、僕が彼に近づきすぎてしまったら?」
「もし、彼が僕を離れてしまったら?」

心の中でいくつもの疑問が渦巻く。

空羽は必死にその不安を振り払おうとしたが、どうしても頭の中で消えることはなかった。

朔夜がふと空羽の顔を見つめ、少し真剣な表情を浮かべた。

「どうしたの?なんか、考え事してるみたいだね。」

空羽は少し驚いて、慌てて顔を背けるようにして言った。

「ううん、なんでもないよ。ただ、少し…」

「少し?」
朔夜は優しく、でもしっかりとした目で空羽を見つめる。

その目は、空羽の心に何かを感じ取ったかのように穏やかだった。

「大丈夫だよ。君が怖いことがあったら、無理に頑張らなくてもいい。君のペースでいいんだ。」
その言葉が、空羽の胸に染み込んでいった。

「でも、僕が今まで経験してきたことは、壊れることなんてないと思う。君が信じてくれるなら、僕も信じるよ。」

その言葉に、空羽はふと心が軽くなった気がした。

朔夜が自分に対して、こんなにも真摯に、優しく接してくれているのだと実感したからだ。

彼の温かさが、恐れを少しずつ癒していくのを感じる。

空羽はその言葉に微笑み返しながら、心の中でひとつの決意をした。

「ありがとう。」

その言葉は、朔夜への感謝と共に、空羽の心から自然に溢れ出た。