歩き出すために

澪架はその日、自分の中で決めたことがあった。

もうこれ以上、空っぽな自分を抱えながら生き続ける意味はない。
生きる理由なんて、どこにもない。
過去の傷を引きずり、何度も心が折れそうになった。
もう、限界だった。

「今日が最期だと思っていたのに」

澪架は静かに呟いた。
冷たい風が頬を撫で、彼女は歩き続けた。
どこに向かうのか、何をするのかもわからないまま。
ただ、全てを終わらせたくて、心がその決断に向かっていた。

しかし、その足が止まった。

蒼依が突然、目の前に現れた。
「澪架」

彼の声が、澪架の心に響いた。
その目を見たとき、澪架は動けなくなった。
「どうして……?」

「君が……どうしてそんなことを考えているの?」
蒼依は、優しく微笑んで言った。
その笑顔に、澪架は一瞬、心を奪われた。
彼の手が、再び澪架の肩に触れた。
「生きていていいんだよ」

その言葉は、澪架にとって一番必要だった言葉だった。
長い間、誰からも言われなかった言葉。
生きる意味を、今まで誰にも肯定してもらったことはなかった。
でも——

「でも、私は……」
澪架は言葉に詰まる。
過去の痛みが、胸の中に絡みついて離れない。
「もう、どうしていいかわからない」

「君は、何も悪くない」
蒼依の言葉は、澪架の心を少しずつほぐしていった。
「君が傷ついているなら、それを一緒に抱えるから」

その瞬間、澪架の胸に何かが込み上げてきた。
涙が滲み、あふれそうになるのを必死にこらえた。
でも、もう逃げたくはなかった。
もう、これ以上自分を傷つけたくはなかった。

そして——

その時、突然、遠くで何かが動く音が聞こえた。
澪架は、驚いて振り向く。
目の前に広がる景色が、今までとは違って見えた。
光が差し込む先に、見慣れた街が広がっている。
でも、どこか違って見える。
色が、少しだけ鮮やかに感じる。

「君が生きる理由は、きっとこれから見つかるよ」
蒼依が、優しく言った。
その言葉に、澪架はただ頷いた。
彼女の心は、少しずつ変わり始めていた。