澪架は歩いていた。あてもなく、何も感じることなく。ただ、空っぽな自分を抱えたままで。

だが、その日、ふと耳にした音が、彼女の足を止めた。

最初は風の音かと思った。静かな街の片隅、無人の公園のベンチに腰掛けると、何かが響いている。

それは歌声だった。

透き通るような声が、どこからか遠くで聞こえてくる。
言葉ははっきりとはわからないが、そのメロディーは胸の中で共鳴する。
「……誰?」

澪架は周囲を見渡した。だが、そこには誰もいない。
どこからその声が響いているのか、まるでわからなかった。
空っぽな街には、ただ自分の足音と、その声だけが響く。

気になりながらも、澪架はその場を離れようとした。
だが、歌声はどこかでまた聞こえ始めた。
それはまるで彼女を呼んでいるかのように、心の奥を引き寄せる。

その歌声が気になり始めた頃、澪架はSNSを開いた。
投稿を流し見していたが、ふと目に留まった言葉があった。

「心の中に空っぽな穴があるとき、それを埋めるものは必ずどこかにある」

その言葉が、まるで自分のために書かれたかのように、澪架の胸に刺さった。
その瞬間、歌声がまた響いた。

「何か、私を探しているの?」
澪架は自分でも驚くほど、心が動いたのを感じた。

その後も、街を歩いているときに偶然耳にした言葉が、澪架の心に引っかかることが増えていった。
ある日は、街角ですれ違った知らない人が呟いた言葉が、彼女の心を刺した。
「孤独は、きっと誰かに伝わるよ」

その言葉が、まるで彼女に語りかけているようだった。
どうしてだろう。どうして、こんなに胸が苦しくなるのだろう。

澪架はその答えを、まだ知らなかった。
けれど、次第に彼女は気づき始めていた。
「あなた」という声が、自分の心の中で何かを変えようとしていることを——。