▶めぐりあった、さっきは瞬間的だった
めぐりあひて見しやそれとも分かぬまに
雲がくれにし夜半の月かな(57 紫式部)
閉店ギリギリのスタバで話し、
ひとりぼっちで帰るのは寂しいよ。
月は薄い雲で濁されていて、
一瞬、さっきまでの楽しさが胸の中で再生された。
久しぶりだよねって、
話しているうちは、あっという間だったね。
▶未読スルーしてもいいよね?
夜をこめて鳥のそらねは はかるとも
よに逢坂の関はゆるさじ(62 清少納言)
君からのメッセージ通知が表示された。
『さっきはごめんね』
その言葉が先行するメッセージは、最低最悪だよね。
それでも気になるから、機内モードにして、
既読をつけずに君とのトークを開くと、
やっぱり、私のイライラは収まらなかったから、
君の言い訳を朝まで無視することにした。
だけど、君との関係は続けたいから、
朝、機嫌を直してから、私も謝るね。
少しだけ待っててね。
▶乙女な君の無邪気さを保存したい
天つ風 雲のかよひ路 吹きとぢよ
をとめの姿 しばしとどめむ(12 僧正遍昭)
白いワンピースの裾を
無邪気にはためかす君は乙女そのものだ。
舞姫ような君の無邪気さを、
iPhoneで録画すると、
君はやめてよって、頬を赤らめた。
▶長い夜の寂しさは埋まらない
あしびきの山鳥の尾のしだり尾の
ながながし夜をひとりかも寝む(3 柿本人麻呂)
秋の夜は、長すぎるよ。
ベッドのなか、ひとりきりで、
iPhoneでTikTokのおすすめをなぞっても、
寂しさは埋まらないよ。
▶チョコレートみたいな恋だね
つくばねの峰より落つる みなの川
こひぞつもりて淵となりぬる(13 陽成院)
つきない君への恋心はチョコレートみたいだね。
溶けたチョコレートをピンクのシリコンでできた、
ハートの型抜きにいれるみたいに量産したいよ。
冷え切ったハートを一つずつ、取り出して、
アルミの平皿に等間隔で並べて、
君との恋をもっと甘くしたい。
▶もっと、恋に乱れさせて
陸奥のしのぶもぢずり誰ゆゑに
乱れそめにしわれならなくに(14 河原左大臣)
もっと、恋を深くしたいよ。
乱れた心で、忘れられなくて、
冴えない日常が、わらなくなるくらい、
君への愛しさで気持ちが乱れるよ。
▶夢の中ですら、君に会うのに
住の江の岸による波よるさへや
夢の通ひ路 人めよくらむ(18 藤原敏行朝臣)
波のように気持ちが打ち寄せ続けているのに、
どうして、君は私に会ってくれないの?
夢の中ですら、君に会うくらいなのに、
君は私のこと、忘れてしまったのかな。
▶一方的な片思いなのはわかってる
難波潟 みじかき葦のふしの間も
あはでこの世を過ぐしてよとや(19 伊勢)
私と会ってくれないんだ。
このまま片思いのままで、待つことなんてできないよ。
私を彼女に選んでくれたら、
たった少しだけでも、君すら幸せにできるのに。
▶次は誰も傷つけない恋で君と出会いたい
わびぬれば今はた同じ難波なる
みをつくしてもあはむとぞ思ふ(20 元良親王)
誰も傷つけない恋なら、
きっとこんな気持ちにならなかったんだと思うんだ。
ただ、君のことが好きなのは、変わらないよ。
誰にどう思われてもいいから、
今すぐ、君に会いたい。
▶ねえ、そう言ったでしょ?
今こむと言ひしばかりに長月の
有明の月を待ちいでつるかな(21 素性法師)
ねえ、そう言ったでしょ?
今すぐに会いに来てよ。
もう、連絡も何もない君は、
少し前に言った言葉に対しての責任がないんだね。
だけど、君にも事情があるかもしれないから、
私は君の連絡を待ち続けるよ。
メッセージが来た瞬間に、既読つけるくらいに。
▶スクープに怯える恋を透明にしたい
名にしおはば逢坂山のさねかづら
人に知られで くるよしもがな (25 三条右大臣)
こっそりと恋する必要がある二人は、
いつもスクープに怯えなくちゃいけないんだよ。
だから、インフルエンサーとアイドルの恋は、
透明なままで、二人だけの純度を高めて、
知られないようにしなくちゃいけないよね。
▶いつか見た君
みかの原わきて流るるいづみ川
いつみきとてか恋しかるらむ(27 中納言兼輔)
いつか見た、君にまた会いたいなって思いながら、
電車のドア横に寄りかかったまま、
窓越しにキラキラした大きな川をぼんやり眺める。
▶ありあまる君への気持ちは別れても残ったままだよ
ありあけのつれなく見えし別れより
暁ばかり憂きものはなし(30 壬生忠岑)
君に別れを告げられて、
一晩中、泣いたまま過ごしてしまったよ。
カーテンを開けて、
朝日を部屋に入れてしまうと、
白いフローリングに置きっぱなしだった、
君からもらったネックレスがキラキラしていた。
▶大好きだった大嫌いな君へ
忘らるる身をば思はず誓ひてし
人のいのちの惜しくもあるかな(38 右近)
まだ、大好きだった君のことを忘れられないから、
君の無事を祈っているよ。
今は、そうしているだけで、
大嫌いになった恋の名残を、
自分の中に残すことができると思うから。
▶待ち合わせの5分前
浅茅生の小野の篠原しのぶれど
あまりてなどか人の恋しき(39 参議等)
待ち合わせの5分前、
もう、その5分も待つことが出来ないくらい、
この恋する気持ちは、もう抑えられないよ。
▶知られたくないのに、顔に出てたのかな
しのぶれど色に出でにけり わが恋は
物や思ふと人の問ふまで(40 平兼盛)
「物思いにふけってどうしたの?」
って君から聞かれたけど、
君に本当のことなんて、まだ伝えられないよ。
だって、私は、君に恋してるんだから。
▶ローカルで局所的に炎上
恋すてふわが名はまだき立ちにけり
人知れずこそ思ひ初めしか(41 壬生忠見)
クラスのなかで、私が君のことが好きだっていう噂が広がって、
ローカルな炎上状態になってるね。
昨日、たまたま、君と帰り道が一緒になっただけなのにね。
ほかの奴らは、嫉妬していればいいよ。
私が密かに、君に好意を抱いていたのは、
本当のことだから。
▶泣きながら誓った約束
契りきなかたみに袖をしぼりつつ
末の松山 波越さじとは(42 清原元輔)
泣きながら誓った約束は、
すべて無効になったんだね。
普遍的にしたい気持ちは、
どんな困難も越えられると思ったけど、
今、涙が溢れているのは、どうしてだろう。
▶消えたときめきは、取り戻せない
あひ見てののちの心にくらぶれば
昔は物を思はざりけり(43 権中納言敦忠)
ようやく会えたのに、
会ったこと自体に満足しちゃって、
会う前の君へのときめきは、
どうして消えてしまうんだろう。
手に入れるのは、難しくて、
仲良くなるのは、簡単なのに。
▶君を知らなければ、どうなっていただろう
あふことのたえてしなくはなかなかに
人をも身をも恨みざらまし(44 中納言朝忠)
一度、話しただけでしょ。
そうだよ、ただ、それだけだよ。
だから、片思いのまま、君を見続けていれば、
よかったと思ったんだ。
わかっているよ、恋を諦める以前に
記憶を戻したいっていう、後悔だってことも。
▶寂しさをプレイリストに追加して
あはれともいふべき人は思ほえで
身のいたづらに なりぬべきかな(45 謙徳公)
ひとりきりのまま、悲しみの底に引きずり込まれそうだよ。
寂しさはしばらくの間は続くだろうから、
Spotifyで失恋のプレイリストを流して、
君のことを忘れる努力をするね。
▶揺れる恋は不安なままだよ
由良のとを渡る舟人かぢを絶え
ゆくへも知らぬ恋の道かな(46 曾禰好忠)
揺れるこの恋は先が見えなくて憂鬱で、
さよならも予期できなし、よろしくも予期できないよ。
▶恋の意味を付けたい
風をいたみ岩うつ波のおのれのみ
くだけて物を思ふころかな(48 源重之)
石鹸を砕いて、ASMR動画を作るみたいに、
無意味に意味を付けたい恋だったよ。
君が振り向いてくれるように、
君の冷たさを越えて、
この恋に意味を付けるには、
どうすればいいんだろう。
▶時間に抗えない僕たちは
みかきもり衛士のたく火の夜は燃え
昼は消えつつ物をこそ思へ(49 大中臣能宣)
時間に抗えない僕たちは、
恋のことを考えながら、昼間の退屈な日常をやり過ごし、
夜になっても、ロフトのベッドルームで、
君とメッセージを送り合う。
今週末、また、会えたらいいなって思いながら。
▶悪くないでしょ?
君がため惜しからざりし命さへ
長くもがなと思ひけるかな(50 藤原義孝)
最近、この幸せのことを考えると、
ずっと、こうして、君とコーヒーを飲んで、
くだらない話ばかりしていたいなって思うんだ。
▶振り向いて
かくとだにえやはいぶきのさしも草
さしも知らじな もゆる思ひを(51 藤原実方朝臣)
友達以上恋人未満のままで、
気持ちを伝えないままの方がいいのかな。
君は知らないよね。
ものすごく、君のことが好きだってことを。
▶寝ても覚めてもキラキラでいて
明けぬれば暮るるものとは知りながら
なほうらめしき朝ぼらけかな (52 藤原道信朝臣)
寝ても覚めても、ずっと、君と一緒にいたいよ。
それでも、現実に戻される朝日は、爽やかだけど、
寂しくて、恨んじゃうよ。
▶絶対、知らないでしょ
嘆きつつひとり寝る夜の明くるまは
いかに久しきものとかは知る(53 右大将道綱母)
ねえ、君は絶対、知らないでしょ。
寂しすぎて、ずっと恋愛系のTikTokばかり観て、
寝落ちしていることを。
君がもう一度、私に振り向いてくれる方法を、
ずっと探していることを。
▶君の言葉を保存したい
忘れじの行く末まではかたければ
今日をかぎりの命ともがな(54 儀同三司母)
「ずっと忘れないよ」
君のその言葉はいつまで私のなかで輝くのかな。
今の嬉しさを保存するためには、
天国に行くしかないと思えるくらい、
私のこと、選んでくれて嬉しいよ。
ありがとう。
▶余命は青色
あらざらむこの世のほかの思ひ出に
今ひとたびの逢ふこともがな(56 和泉式部)
私の余命は、もうすぐそこなんだって。
他人事に聞こえるくらい、実感がないよ。
このまま、病室のベッドから、
夏の青色な街を眺め続けるのは、もう嫌だよ。
命が消えてしまう前に、もう一度、君に会いたい。
▶公園で君からのメッセージを待つ
ありま山ゐなの笹原風吹けば
いでそよ人を忘れやはする(58 大弐三位)
公園の芝は、風で揺れ、
吹くたびに、緑の線が揺れる。
ひとりでベンチに座り、君のことを考えているのは、
昨日から、既読スルーされたメッセージのことが、
頭から離れず、忘れられないからだよ。
▶あてがない夜に
やすらはで寝なましものをさ夜更けて
かたぶくまでの月を見しかな(59 赤染衛門)
君にドタキャンされて、
仕方なく、あてもなく、夜の街を歩き続けている。
月は今日も輝いていて、
一人でいる寂しさが虚しさに変わるよ。
君は自分勝手なんだねって、
仕方ないけど、ちょっとだけいじける。
▶自動的に閉ざされた君との恋
今はただ思ひ絶えなむとばかりを
人づてならで言ふよしもがな(63 左京大夫道雅)
もう、すべてが遅いよね。
全部、悪いのは僕だったよ。
だから、別れ際に君がもっと僕のことを恨むように、
わざと連絡を絶ってごめんね。
僕が悪者になれば、きっと君は僕のことを忘れて、
前を向けると思うから。
▶失恋の痛みはそのままで、平日を迎える
恨みわびほさぬ袖だにあるものを
恋にくちなむ名こそ惜しけれ(65 相模)
深く胸をえぐられるくらい、
涙を流し続けているよ。
オーバーサイズのシャツの裾は、
濡れて、もう、ぐちゃぐちゃだけど、
明日は、平日だし、平常心を取り戻さないとね。
失恋したって、悲しくなる噂を作らないように。
▶この恋が本気なら
音にきくたかしの浜のあだ波は
かけじや袖のぬれもこそすれ(72 祐子内親王家紀伊)
もう、涙で裾を濡らすのは嫌だよ。
私のこと、本命だと思ってくれるなら、
この恋に本気になれると思う。
だから、私はあなたが本気だという、確証を得たい。
▶冷たい風が現実を運んでくる
憂かりける人を初瀬の山おろしよ
はげしかれとは祈らぬものを(74 源俊頼朝臣)
冷たい風が現実を運んできたみたいだね。
風で揺れる切りたてのウルフの毛先が流れる。
私の些細な恋の祈りは、
叶うことがなかったけど、
きっと、次が待っているんだよね。
次の恋が。
▶君を離したくない
瀬をはやみ岩にせかるる滝川の
われても末にあはむとぞ思ふ(77 崇徳院)
手を離さないよ。
激流の世の中だから。
たとえ手を離してしまったとしても、
一度、惹かれ合った君をまた会えるように、
また、手を差し出すよ。
▶「ずっと愛してる」って言ったよね?
長からむ心も知らず黒髪の
乱れてけさは 物をこそ思へ(80 待賢門院堀河)
「ずっと愛してる」って言ったよね?
だけど、最近、君の気持ちがわからなくて、
私の心は乱れ続けたままなんだよ。
ただ、一言、「好き」って言葉さえ伝えてくれたら、
こんな気持ち、抱かないのに。
▶この恋はインストールしたまま進まない
思ひわび さてもいのちは あるものを
憂きにたへぬは涙なりけり(82 道因法師)
ずっと、君への片思いは、
インストールしたまま進まず、
もう、無理なのかなって、
諦めてしまいそうだよ。
涙は日々、流し続けていて、
このまま、ひとりきりは嫌だなって、
ぼそっと呟くことも多いけど、
この恋は叶えられそうにもないや。
▶一晩中、君のことを考え続ける日は
夜もすがら物思ふころは明けやらで
閨のひまさへ つれなかりけり(85 俊恵法師)
闇が抜けないトンネルみたいに、
一晩中、君のことを考え続ける日は、
虚しいから、いつもココアを飲んで、
大人しく本を読んでいるよ。
いつか、大人になるけど、
私はこの恋が続く限り、
自分だけ置いていかれてしまうんじゃないかなって、
ふと、思っちゃうくらい、
今晩も、君のことを思い続けているよ。
▶君の存在は月みたいに遠くなった
嘆けとて月やは物を思はする
かこち顔なる わが涙かな(86 西行法師)
急に思い立って、
夜中のローソンでハーゲンダッツを買った帰り道、
ふと、青白い月を見上げて、
恋になる寸前だった君のことを、
思い出し、涙が溢れたよ。
▶不安だけど
難波江の葦のかりねのひとよゆゑ
みをつくしてや 恋ひわたるべき(88 皇嘉門院別当)
ただ、旅に出ただけだったのに。
成り行きにまかせて、君と過ごした所為で、
君に恋してしまったよ。
君が本気になるかわからないけど、
もし、この本気が一生物になるなら、
不安だけど、私はこの恋に強気でいたい。
▶恋で自制できなくなっているよ
玉のをよ たえなばたえね ながらへば
忍ぶることの弱りもぞする(89 式子内親王)
このまま、メンヘラこじらせたっていいよ。
それくらい、今の私は、恋に落ちていて、
恋で自制できなくなっているよ。
内に秘めたまま、弱ってしまう前に、
さあ、気がついて。
そして、私のことを見て。
▶見せたいよ、君に
見せばやな雄島のあまの袖だにも
濡れにぞ濡れし色は変はらず(90 殷富門院大輔)
見せたいよ。
私が恋に強いことを。
もう、どれだけ涙で濡らしたと思っているの?
君にはわからないでしょ?
濡れに濡れた私の心の色を。
▶恋はコーヒーに溺れる角砂糖みたい
わが袖は潮干に見えぬ沖の石の
人こそ知らね乾くまもなし(92 二条院讃岐)
恋は、角砂糖をコーヒーに沈め、クリープを回しかけ、
色を変えるようなものだね。
コーヒーの中で溺れた角砂糖が私で、
君はなんでも飲み込んでしまうコーヒーみたいな
ものだと思うんだ。
もう、溺れきるまで、泣くよ。
君を忘れ、次の恋を探すために。
▶来ない君を到着ロビーで待っている私
来ぬ人をまつほの浦の夕なぎに
焼くやもしほの身もこがれつつ(97 権中納言定家)
空港で来ない君を待ち、恋い焦がれているよ。
30分遅延の表示は変わらないままで、
まだ着陸もしないみたいだね。
君がガラスの自動ドアを抜け、
到着ロビーにたどり着いたら、
思いっきり抱きしめたい。
☆参考資料、サイト☆
【嵯峨嵐山文華館】小倉百人一首の全首を見る : https://www.samac.jp/search/poems_list.php
イラストでサクサク覚える 東大生の百人一首ノート 東京大学かるた会 すばる舎



