「いいよ、お嬢と由伊には自分で話すし」

無月は黙って頷き返し、ややあってから口を開いた。

「寿命だと判るのか」

「んーまあね。でもオレはオレだし、参考にはなんないと思うよ?強いて言うなら、やっぱ不老は不死じゃないってそんだけでしょ」

「・・・お前らしい物言いだな」

「夜見の隊長らしいって言ってくんない?」 

謳うようにおどけて。

だがその眼差しの奥に、闘気のごとき(ほのお)が揺らめくのを無月は見逃してはいなかった。何か覚悟を決めている。揺らぎ無い決意で。
 
「以後、この件に関するお問合せと苦情は受け付けないのでヨロシク。・・・若ダンナ、ちょっといい?」

「・・・ああ」

そこで初めて氷凪が声を発した。いつもより低めだったが冷静で淀みのない声音。翡翠色の眸に動揺など感じられず、遊佐は大いに満足した。

そうでなくては。今が戦場(いくさば)であろうと無かろうと、死地に赴く者に誇りを抱かせる存在。氷凪はそうでなくては。

久しく味わえずにいたこの臨場感に心震える。在るべき場所に還りつける喜びに。
 
・・・本望だ。

その一言に尽きる。胸の内に深々と思いを刻み込み、完全に沈黙してしまった支癸には一瞥もくれず、氷凪と共に部屋を後にした。

二人が出て行った後も支癸はそこから動けなかった。どうして自分でなく遊佐なのか、何も遊佐が先に死ぬことはない。支癸は思いきり拳を畳の上に叩きつける。 

「支癸」

広縁に佇んでいた無月は振り返って、静かに声を掛けた。座り込んだまま顔も上げない支癸にそのまま言い重ねる。

「遊佐は何を望んでいると思う?お前だけが解ることもある筈だ」

月も無い闇夜を無月はじっと見つめていた。桜の蕾も漸くほころんで来たと言うのに。

散り際の花、一輪。
『散る様をとくと見届けろ』
・・・と、それが云うのだ。
艶やかに。