思いも寄らない告白に、支癸は大きく目を見開いたまま絶句した。寿命という言葉がどうしても飲み込めない。即ち死であるとどうしても認められない。

ゼンマイ切れのロボットの様に動きが止まってしまった支癸に、遊佐は「呆けてんなよ」とわざとらしく笑う。

「死ぬのはお前じゃねーだろ、しっかりしな」

相変わらずシニカルに、それから無月に視線を傾げた。

「出どころはお嬢？やっぱ判っちゃうもんだねぇ」　

「どこか悪いんじゃないかと打ち明けられたよ、今までと違う気がすると。目も･･･な」

「･･･そうかい」
　
紅い目は〝ひと〟の領域を超過する時の合図だ。あるいは不老の特殊な因子が、衰えつつある人間本来の機能を補う為に働くのかも知れない。

だがいずれ、色が完全に戻らなくなったら死期が真近い。そういう事だ。遊佐は薄く笑んだ。

「お嬢のコトだから自分のせいだって泣いたろ？」

千鳳院の直系である氷凪達や血縁の無月と違い、自分と支癸は〝後付け〟だ。だからかどうかは知らないが自分が一番先に逝く。順番としては悪くない。

生き死にがすぐ傍(そば)にある。自分が何者だったかを思い起こす。血がたぎるようでワクワクする。･･･なんて言ったら、支癸あたりは怒るな、いや泣くか。それなりの最期を見せつけて逝かないと、遺される側が辛いだけだ。

自分でも不思議だが、心の内はこれ以上無いという位にクリアだった。何か前兆があった訳でも無い、痛みも苦しさも何も。･･･ただ、ひなせに精気を注ぎ込みながら直感した。あと少しで命尽きる･･･と。