深いゼリーの海。無月や遊佐、支癸の誰と交わっても、ひなせにとってその後の充足感と気怠さは、そんな中にたゆたっている感覚だ。
普通の人間より濃密な彼らの精気は、良くも悪くもひなせにとっては毒になる。だが欠いては生きてゆけない。いつまでも親鳥に餌をねだる雛ではいられないと思っても、欲してしまうし求めてしまう。
裸のまま遊佐の腕枕でベッドに沈み込んだひなせは、少し疲れさせてるのかと戸惑った。いつもと変わった様子も無かった。けれどどこか、ゼリーの海が浅瀬に思えるのは何故だろう。足りないと言うのでなく何か・・・。
眠りに落ちたのか、目を開けない遊佐の横顔をじっと見つめた。
と。柘榴色の眸と目が合った。思わず息を呑む。
「遊佐・・・?目・・・」
「ん?ああ・・・なかなかのイロでしょ」
そう言いながら体勢を入れ替え、遊佐は仰向けにしたひなせを見下ろした。
「似合う?」
「うん・・・。すごく綺麗」
紅色の宝石。ひなせはうっとりと嘆息した。自分が持つマリンカラーもとても好きだが、深紅というのも神秘的で好い。愛嬌があるのにシニカルな面も持ち合わせる、遊佐の雰囲気に合っている。
「気に入ってるし、一度お嬢に見せたかった」
「もう見せてくれないの?」
「さぁねぇ。だから憶えておきな?忘れないように」
口の端に笑みを浮かべた遊佐がキスを落としたのを、深い意味はないと思いたかった。胸の奥がざわついたのを置き去りにして。

