「なんだ、やっぱりこっちだ。探したひなせ。今日はオレの買い物に付き合ってくれる約束だろ?そろそろ出かけたいんですケド、よろしいで・す・かぁ?」

語尾をわざとらしく強調しながら、浅葱(あさぎ)は前屈みに彼女を覗き込んだ。 

離れの桜が気に入りで、姿が見えない時はひなせは大抵ここに居た。樹齢百年以上を思わせる立派な幹に両手を添わせ、まるで誰かの胸に躰を寄せているかの様に幸せそうに、愛おしそうに。誰かが、呼ばないといつまででもそうしているのだった。

「ごめんなさい、支度は出来てるから大丈夫」

向き直った笑顔は浅葱が幼い頃から変わらず、今年15歳になった自分と並んでも、幾つ違いかの姉弟にしか見えない。

「それよりね、年頃の男の子がお母さんと買い物ってどうなの?ちゃんと普通のお友達とも付き合わなきゃ駄目っていつも言ってるでしょう」

少し困ったようにひなせは浅葱を見上げた。

160㎝にも届かない身長はあっと言う間に超され、伸び盛りの息子は成長期の最中だ。少し癖のある髪。色素の薄い瞳。整った目鼻立ちは誰に似ていると言うよりは、誰にも似ている。

「いーの、あんなのただのエサだよ。オレとは違うんだからさ!」

無邪気に笑う。

浅葱は13歳で不老の血が目覚めた。教えていないのに、相手を殺さない程度の“狩り”の仕方を知っていた。まるで遺伝子に刷り込まれて生まれたように。

浅葱は想いが育んだ命。ひなせはそう思っている。父が誰であっても、幸せというほか言葉が浮かばない。きっと、命を繋ぎたい・・・と強く願ってくれた誰かの想いが叶えた奇跡なのだ。

初めて我が子を胸に抱いた時、愛おしさに胸が詰まってただただ泣いた。泣きながら何度も繰り返した。ありがとう。おかえりなさい。おかえりなさい。ありがとう・・・と。