遊佐は枝垂れ桜の下に埋葬された。

抜け殻になったひなせは泣くことも叫ぶこともなく、誰の声も聴かない。暗い瑠璃色の眸だけがずっと何かを追い続けて。

「・・・ひなせ、遊佐にお別れしなきゃ」

土に埋もれてゆく亡骸。抱きかかえたひなせに由伊はそう声を掛けたが(いら)えはない。最後に支葵が自分の手で丁寧に小高く土を盛り、遊佐の眠る(しるし)を残した。

それで終わった、夜見の遊佐の総てが。あっさり逝きやがって。支癸は苦し紛れに胸の内で嗤う。

久住を(たお)した時の半分も本気を出したようには見えなかった。無傷に見えた氷凪は脇腹を擦られていたが、遊佐の手加減だったのか、あるいは。己の存在を傷に残して逝きたかったのか。

願わくば花の下にて。
霞星の手向けの桜の下で。

「来年も再来年もその先も、お前とずっとここで花見が出来るな・・・。遊佐」

幹に掌で触れ、溢れんばかりの花を見上げて無月が低く呟いた。氷凪は黙ってそれを聴いていた。






それからも中庭の桜は散ること無く咲き続けた。ひなせがそっと幹を抱くと、狂い咲きの桜はほろほろと花を降らせてみせた。百年、二百年、彼女の命が絶えるまで永遠に。