「はな、して、ゆい」

「・・・無駄だよ。止められない・・・誰にも」

低く抑揚の無い声音で無情な宣告をする。

「遊佐は天命を待つより、自分の意思で、自分が望む最後を叶えたかったんだよ」

瑠璃色の瞳が絶望をたたえ、崩れ落ちた彼女を由伊が強く抱き留めた。

「・・・見届けて、見送る。それが遊佐の願いだから」
 
糸が切れたように思考も感情も麻痺して何だかよく解らない。灰色の心のまま、レンズにただ写すように、ひなせは由伊の腕の中で遊佐を見つめた。

と。空気が揺れた。

同時に氷凪と遊佐が飛び出す。ザザァッと石が踏みしだかれ、鋼同士の衝撃音が鋭く響き渡った。もの凄い反応速度で幾度か斬り結んだ後、間合いを計って二人ともが後方に飛び退る。

「・・・遊佐ッ!」

思わず支癸が呻いた。次が双方、勝負の一撃だ。無月の表情が一段と険しさを増す。

白銀の陣羽織を纏った氷凪と、漆黒の装束を身につけた遊佐は光りと陰のようだった。風を切り、白と黒の軌跡が交錯した瞬間、斃れこんだ遊佐。ひなせの悲鳴。支癸が咆哮し、無月は天を仰ぐ。

由伊は氷凪を見ていた。鞘に納めた愛刀を握り締める手が、肩が、小刻みに震えている。駆け寄った支癸が膝を付き、遊佐の亡骸を抱き締めて嗚咽を漏らす傍に、ただじっと佇み続ける。
 
ひなせは息をしているだけの人形になって、もう何も見ていない・・・・・・。