立ち上がり、食い入るように見つめていた無月と支癸は気配が変わった瞬間、即座に反応した。彼等に手解きを受け、武術を心得た由伊もまた、ひなせを抱き締めて固唾を呑み目を凝らす。

氷凪が月清を抜き、ゆっくりと両手で構えに入ったようだった。

「・・・久住を殺った時は一撃だ」

支癸がポツリと漏らした言葉に無月はスッと目を細めた。

「遊佐は、嵯峨野(さがの)仕込みだからな」

速さでは遊佐が上を行くかも知れない。氷凪は強い。それは育ててきた自分が一番よく知っている。しかし、ただでは済まない覚悟は必要だ。遊佐は全力で来る。闘って死を勝ち取る為に。

どう雌雄を決するか。見届けて、己の役割を果たすまで感情を先走らせるな、と自戒しながら無月は眼差しに力を込めた。何が起こっても目を逸らさぬように。

「・・・ゆさ・・・、ど・・・し、て」

ひなせの唇から虚ろに漏れる。あれが最後の夜だなんて、そんなはずがない。
 
『オレはきっとお嬢の中で、細胞のひとつぐらいには生まれ変わってる筈だからさ。あんまり泣くなよ?・・・若ダンナのコト悪く思うな、全部オレの我が儘だから』

深い眠りに落ちたひなせに、遊佐が残した思いは永久に届くこともない。何も知らないまま朝を迎え、ほんのさっきまでは花見を皆んなで愉しんでいた。・・・笑っていた、ついさっきまで。

ひなせはただ愕然と、目の前で繰り広げられているものが受け容れられずに、由伊の腕の中で必死に藻掻く。止メ、ナキャ、遊佐ガ死ンジャウ。