区画整理された新興住宅地を眼下に臨むようにして、小高い場所にその森は在った。続く道は一本きりで、坂の途中に閉ざされた鉄格子の門が現れ、石造りの門柱には『瀬戸』と彫られた表札が埋まっている。
格子の合い間を覗いても、崩れかかった石垣に囲われた細い通路と、石垣を苗床にしたかのように天に向かって茂っている木々の他はなにも見えない。
その奥に隠されたように、ひなせ達の住む家は在った。いつの時代に建てられたのか、表構えはモダンで洋風だが、奥には数寄屋造りの離れが続いていて趣が一変する。
苔生した坪庭や、整然と並ぶ障子戸の光景が一層、幽寂さを誘い、時に置き去られたかのような厳かな気配が漂う。それもおそらくは主たる、氷凪の存在ゆえだろう。
常から羽織り袴姿。その立ち振る舞いは見た目の歳に似合わず、凛として風格さえある。一見16、7歳の少年の面差しは東洋人そのものだが、眸は稀有な翡翠色をしていた。
五百年の昔、戦で生死の境を迷い目覚めた不老の血。その時以来、髪は青味がかった銀色だ。千鳳院の血統とは、どうやらそういう者であるらしい。唯のひとだった無月、遊佐、支癸を不老に代えたのも千鳳院の血だった。
ひと為らざる者。そう自嘲した日々も確かに在った。だがあの日、数度に渡る侵略の末、城は焼かれ石動の里は崩壊した。最期まで命を尽くして散っていった、夜見の魂は今もここに眠る。
織田も豊臣も徳川も去り、果てない時間を経ても記憶は未だ鮮やかに。何が終わった訳でもない。千鳳院氷凪は、生きる限り石動城主であり、無月も遊佐も支癸もまた夜見で在り続ける。
この国が今はこうして栄えた、その礎となった遥かな者達と共に。
格子の合い間を覗いても、崩れかかった石垣に囲われた細い通路と、石垣を苗床にしたかのように天に向かって茂っている木々の他はなにも見えない。
その奥に隠されたように、ひなせ達の住む家は在った。いつの時代に建てられたのか、表構えはモダンで洋風だが、奥には数寄屋造りの離れが続いていて趣が一変する。
苔生した坪庭や、整然と並ぶ障子戸の光景が一層、幽寂さを誘い、時に置き去られたかのような厳かな気配が漂う。それもおそらくは主たる、氷凪の存在ゆえだろう。
常から羽織り袴姿。その立ち振る舞いは見た目の歳に似合わず、凛として風格さえある。一見16、7歳の少年の面差しは東洋人そのものだが、眸は稀有な翡翠色をしていた。
五百年の昔、戦で生死の境を迷い目覚めた不老の血。その時以来、髪は青味がかった銀色だ。千鳳院の血統とは、どうやらそういう者であるらしい。唯のひとだった無月、遊佐、支癸を不老に代えたのも千鳳院の血だった。
ひと為らざる者。そう自嘲した日々も確かに在った。だがあの日、数度に渡る侵略の末、城は焼かれ石動の里は崩壊した。最期まで命を尽くして散っていった、夜見の魂は今もここに眠る。
織田も豊臣も徳川も去り、果てない時間を経ても記憶は未だ鮮やかに。何が終わった訳でもない。千鳳院氷凪は、生きる限り石動城主であり、無月も遊佐も支癸もまた夜見で在り続ける。
この国が今はこうして栄えた、その礎となった遥かな者達と共に。

