「無月」

遊佐の声音に迷いはない。無月はただ真っ直ぐ見つめ返し、ゆっくりと頷く。

「・・・ああ」

「支癸」

僅かに支癸の、その屈強そうな躯が震え。黙って遊佐と目線を交わした。・・・それだけだった。 

由伊はただならぬ空気を感じ取って思わず父を振り返る。氷凪が刀を手に立ち上がるのが見えた。

「父上、何を・・・」

何をするつもりなのかと問おうとして言い淀む。これまでに見たこともないほど厳しい横顔。前を見据える翡翠色に気圧される。何が始まる・・・?由伊の胸が騒ぐ。

「・・・ゆい?」

酔いで火照ったひなせは少しぼんやりとしていた。遊佐と氷凪の二人が石庭に下りて行くのを何気なく見送り、由伊が険しい表情を浮かべているのを不思議そうに見つめる。

「遊佐と氷凪・・・どうしたの?」

「ひなせ・・・」

ようやく先行きを悟った由伊は、唇を噛みしめ背中からひなせを抱き竦めた。

おそらくこれから目にするものは、彼女にとってどれほど耐え難い現実となるだろう。僕がいる。僕がいるから。祈りのように心に刻みつけて覚悟を決める。

「・・・ちゃんと見てあげて。これから遊佐は父上と真剣で勝負する。負ければ死ぬ、・・・どちらかが」